第3話 狩人の女の子が仲間になりたそうにこっちを見ている?
☆☆☆
秘密結社蛇の瞳との戦いの後、私は街の人と蛇の瞳のご厚意により、様々な物品を貰った。
そう、街の人と蛇の瞳のご厚意で、だ。
「旅のお方、長旅をするのなら、砂鰐はいかがでしょうか?訓練された砂鰐は人を襲うこともありませんし、砂の上であれば馬よりも早く移動することが出来ます。」
「ほぉ、それは良いな町長、では我からはこの圧縮クッキーを贈ろう。この圧縮クッキーは四本で一日分の食事に相当するぞ!」
「それは良いですねぇ。流石は蛇の瞳のボスだっただけのことはありますなぁ」
「ふふっ、それ程でもある。」
いや、どういうこと⁉何で昨日まで敵対していた二つの組織の長が仲良く肩組んで話してるの⁉
昨日まで敵同士だったよね⁉
それがなんで長年一緒に町興ししてた仲みたいに親密になってるの!
むしろ、
釈然としない。なんっか納得いかない
だけど、私の気持ちとは裏腹に二人はキョトンとした顔で私を見つめてくる
「どうか、されましたかな?」
「一体どうした流離の魔眼使い」
「仲…良いなって思って」
私の純粋な疑問に男たちは見つめ合うとぶっと吹き出し、どちらともなく組んでいた肩を離し握手する。
「いやぁ、昨日の蛇の瞳打倒を祝した宴会で意気投合しまして」
意気投合してたんだよなぁ。
意気投合。なんか、蛇の瞳打倒を祝した宴会なのに当たり前のように
縄で縛られて、物置小屋に閉じ込められていた筈なのに、何故か当たり前のように混ざってたんだよなぁ。
しかも蛇の瞳のあんな行為、こんな行為に苦しめられたって話題に当たり前に入ってきて「なんて奴らだ‼」「よく頑張った‼」と相槌うってるし、肩に手置いてたし。
お前らやろがい‼っていうツッコミは一向に飛び出さないし。
最終的には魔眼を使った宴会芸を披露して町長からも気に入られ、一緒に町を盛りあげていくことになったんだよなぁ。
まぁ、戦闘力は高そうだし結構色々なことが出来そうだし、良いのか。いっか……。
……いや、良いのかなぁ~。ちょっと流されそうになっちゃったけど、ケジメみたいなのはしっかりつける必要があるんじゃないかな?
「安心しろ。我もこれまでの罪を清算するために頑張っていく。決して無かったことにはしないさ。そのために、我に何が出来るのかを町長と話し合ったのだからな」
「ええ、これからは町をもっともっと豊かにする。幸い蛇の瞳によって死傷者が出たことはありませんからな。町の者の信頼は少しずつでも回復させることが出来るでしょう。
蛇の瞳のボスと面談して、我々が出した大円団に至るための答えです。」
「ふっ、我々という異物が力を貸すことで生まれる大いなる力の流れによってこの町を良き方に導く。まるでバタフライエフェクトだな」
「ははは、では私は一羽の蝶を招き入れた町長ということになりますな。」
「「ははははははは」」
似た者同士なんだろうなぁ。きっと。
まぁ、罪を償っていくっていうのなら、良いのかな。何だかここの人たちも陽気な人たちが多いし、きっと上手くやっていくよね。
……あと、町長さん、言いにくいのですが、大円団という言葉はありません。それを言うなら大団円です。
面談と円団でかけようとしたのでしょうが、そうは問屋が卸しません。
とはいえ、余計なツッコミはしない。私はここでクールに去るぜ!
「じゃ、これは有難く貰ってく。ありがと」
私は二人に感謝を述べると町を後にした。
街を出る時に皆が手を振ってくれた。蛇の瞳の人たちも宴会芸で見送ってくれた。
因みに町の人たちから砂鰐に圧縮クッキーの他にも水に食料、寝袋、荷車を貰った。
これで長距離移動も問題ない。
☆☆☆
街を出た後はのんびりと進んでいく。
急ぐ用事も無いからね。
それにしても、勇者として旅していたころとは全然違う。
あの頃はいつ何時でも魔王の使い魔に襲撃される危険性があったからなぁ。
それに比べると何と平和なんだろう。
そう思っていると遠くで煙が上がっていることに気づく。
ここら辺に町は無いから冒険者かキャラバンだろうか?
何か有用な情報が得られるかもしれないし、行ってみよう。
どうせ、急ぐ旅じゃないしね。
私は気軽な気持ちで焚火の方に向かっていった。
これが珍道中の始まりとなることをこの頃の私はまだ知らない。
焚火に向かって砂鰐を走らせていると遠くで女の子が魔物を焼いていた。
直径2メートルはある魚型の魔物だ。
狩人だろうか?
それにしても女の子の一人旅なんて珍しい。
因みに女の子の容姿はプグナ人の身体的特徴である褐色肌に雪のように白い白髪、白兎の様な赤い瞳のジト目系美少女だ。
その美少女は私の視線に気づくとこちらを向き、ドンっという音と共に姿を消すと、いつの間にか私の目の前に移動しており、不可思議な砂と水と風に拘束されていた。
いや、何が起きたか全然わかんないって?
私も分からん。
「…ご飯頂戴。お腹空いて死んじゃいそう」
おおおおお、美少女が喋りおった。
というか、お腹空いていたのか、確かに荷車に置いている食べ物に手を伸ばしている。
そう言うことなら、仕方がない少し恵んで進ぜよう。
ああ、でも、
ほんとうは
独りで食べたい
ご飯たち
甘味も塩味も
私のもんじゃ!
字余り
っていやいや、行き倒れてる美少女を無視して独り占めなんてダメ、絶対。
いや、行き倒れにしては元気だったけど、肉焼いてたけど。
それでも…それでも!美少女を慈しむ心は忘れちゃいけないんだ‼
私が今やるべきことは少女にご飯を恵むこと。それ以外の思考は排除!
煩悩退散。
でも、なんでだろう?
突然「もんじゃぁぁ焼き」が食べたくなっちゃったよ……。
☆☆☆
あの後、美少女が魚型の魔物を焼いていた所に行き、一緒にご飯を食べることになった。
私は自前の食料を美少女に分けて、その代わりに美少女は私に魚型の魔物の肉を分けてくれた。
因み美少女の名前はフィーデちゃんっていうらしい。
「ありがと、助かった。」
ほぉぉぉぉぉぉ、フィーデちゃんにお礼を言われてしまった。
あ、それはそれとして、何で行き倒れてたのか聞いて見よう。
「…なんで私を頼るの?これだけ大きなお肉があるのに」
あぁぁ、しまった。口下手なせいで凄い非友好的な態度を取ってしまった。
取り返さなくては、好感度を取り返さなくては‼
悪い意味じゃなくてこんな大きな魔物を狩れる位強いなら食べ物にも困らないんじゃないかなって思ったって伝えないと。
「…他人に頼らなくても自分で何とか出来たでしょ?どうしてそうしなかったの?」
あ、オワタ。
私、何でこんな口下手なの?
あ、そっか、全然他人とコミュニケーションとって来なかったからか!
って現実逃避している場合じゃない!
「私、料理できないの」
私の辛辣な言葉にも屈することなくフィーデちゃんは質問に答えてくれた。
すまない、フィーデちゃん。
って、料理?
料理なんてしなくても良いんじゃないかな?魔物肉焼くだけだし。
「貴方にとってお肉焼くのが料理なの?」
「うん、難しい」
そっか~、難しいならしょうがない。
言われてみればレアとかミディアムとかウェルダンとか難しいよね。
私も最初どういう意味か良く分からなかったもん。
因みに私はガッツリ焼いてあるのが好きだから、断然ウェルダン派です。
「知ってはいると思うけど、狩人焼肉協会はこんがり焼きを推奨しているの」
いやっ!知らないけど‼
なに⁉狩人焼肉協会って!
そんなもの今日初めて聞いたけど!狩人にはそんな協会あったの?
焼肉ガチ勢なの⁉
それにこんがりって、まぁこんがりか。
ウェルダンとかよりもむしろ馴染める言い方。
食中毒とか寄生虫とか怖いもんね。私もこんがり派です。
「それで生焼けからこんがりになる瞬間が難しいの。あんまり遅いと今度焦げ焼きになっちゃうの。」
そうか、難しいのか。
ならしょうがない。魔物は大きいしね。
というか、狩人焼肉協会だと肉が焼ける段階を生焼け、こんがり、焦げって言い方にしてるのか。
じゃあ、生肉は…生かそのまんまだ。
覚えやすいけど、なんか嫌だ。
店とかでレアとウェルダンとかの言い方を使っている理由が分かった気がする。
生焼けにしますか?それともこんがり?生焼けとこんがりの中間にしますかって?質問される訳だもんね。
食欲失せちゃうよ。
いや、レアも実際はちゃんと火が通っているらしいけど。
そう言えば、ミューちゃんが前に話してたけど、大きなお肉は余熱で火が入るのを待ったりするけど、薄切り肉とかはそのまま炒めて食べられるから楽だって言ってたな。
つまり
「…解体して焼いたら火が通るじゃない」
そうだよ!その手があったよ。
どうですかい。姉御名案でしょう?
私はフィーデちゃんを見つめる
「それは狩人焼肉協会の掟に反する。
狩人焼肉協会掟第一条『焼肉をする時はでっかいのを焼くべし。』
大きさの基準はかぶりついて顔が隠れるのが最低条件。
でも、大きければ大きい程敬われる実力主義の世界。
簡単に焼ける程度の大きさにして食べてるなんて知られたら一生後ろ指を指されることになる」
シビア!シビアっていうか、幼い男児か!食べ方なんて人それぞれでいいでしょうが!
ハンバーグにして食べる人に野菜と炒めて食べる人、スープに入れる人、多様性を重んじろ、多様性を!
取り敢えず、フィーデちゃんにはその狩人焼肉協会とやらの掟に縛られなくてもいいんじゃない?とだけ言って置くか。
「…好きにすればいい。」
「なら、あなたについて行かせて、私はある事情から舐められるわけにはいかない。
だから、狩人焼肉協会の掟に縛られないあなたが料理して。私は魔物を狩る」
そんな……そんなのって…………二つ返事でオッケーですよ‼
でも好きにしていいってそう言う意味じゃないんだけどね。
☆☆☆
「へっへっへ、金目のもの置いてきな。嬢ちゃんたち」
私とフィーデちゃんは現在盗賊に囲まれていた。
どうやら、盗賊たちも焚火の煙を見つけてこっちに来たようなのだ。
魔王の使い魔に襲われる心配が無いからって油断していた。
ヤバい。
私戦えない。
ピンチだ。凄いピンチだ。
しかも、盗賊の数が多い。
ざっと30人はいる。
そう思っていると、盗賊同士が話し出す。
「なぁ、あの子たちかわっ、ブゲッ!」
盗賊の一人が突然吹き飛ばされる。
それはそれとして、かわ、何だろう?変わった格好しているね、とかだろうか。
確かに私はパジャマだけど、フィーデちゃんは普通の旅装の筈だ。
挑発のつもりなのかな?
私が呑気にそんなことを考えていると盗賊のお頭が焦ったように冷や汗を流し、後ろにいる部下に命令を出す。
「おめぇら、相手は魔眼使いだ!気を付けろ」
盗賊のお頭が指示を出すと同時。
全員漏れなく空を舞った。
お頭も含めてだ。
空から槍が振るのか、なんていう言葉があるけどまさか人が振ってくる日が来るとは、この魔眼の勇者の目をもってしても気づけなかったよ。
因みにこれは明らかに私の魔眼の力ではない。
「敵の前でよそ見しちゃ駄目だよ?」
そう言うと、フィーデちゃんは槍を下ろす。
速すぎて見えなかったけど、フィーデちゃんって強いんだなぁ。
「アリア、こいつらどうする。殺す?」
いやっ、物騒‼
殺しちゃ駄目でしょ。盗賊相手でも。
どうせ、全治一か月くらいの怪我してるだろうし、放っておこう。
あ、因みにアリアは私の名前。
そう言えば外見すら、話してなかったけど、桃色の髪に桃色の瞳の褐色肌のどこにでもいる普通の女の子。
「……放っておこう。私、早く街に行きたいし」
「分かった。」
こうして、無事盗賊を倒した私たちは町を目指して砂鰐を走らせるのだった。
小ネタ
その後
盗賊A「お頭ぁ、ほんとにあの子たち俺らのことを放っておいて行っちゃいましたよ」
頭「ああ、とんでもない奴らだ。まさか、全治一か月の怪我人を暑いうえにいつ魔物が現れるか分からない砂漠にほったらかしにするとは、白髪女よりも鬼畜だな。ピンク髪」
盗賊B「でも可愛かったっすねぇ。二人とも」
盗賊C「ああ、特に桃色髪の子が好みだったなぁ」
盗賊A「俺は白髪の子が良かったなぁ」
盗賊D「俺は……」
盗賊E「俺は……」
盗賊F「俺は……」
…………
盗賊etc「「「「「「どっちの女の子が真のヒロインか決着をつけようか!!!!!」」」」」
頭「やめろ‼お前たちは怪我人なんだぞ!!!」
盗賊A「そうでした。とはいえ、ここ、病院じゃなく砂漠ですけどね」
頭「そうだったな……」
私は魔眼の勇者またの名をただの女の子という パグだふる @wakaba1002
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