第2話 決戦‼秘密結社『蛇の瞳』

☆☆☆


必要なものを最低限持った私は砂漠を歩く。

しかし、ここで私はある重要なことに気づいてしまった。


一体何なんだって?

不思議に思う人もいるでしょう。

そう、それは


野宿できない。


いや、初めに言っておくと別に野宿が出来ない訳じゃないんですよ。

え、さっきと言ってることが違うって?


さっきのは語弊があった。

私は例え溶岩の中だろうが、氷河の上だろうが、雷雲の中だろうが眠れますよ。

えぇ、雷が怖くて「きゃあ」なんて声出しませんよ。

いや、ほんとに雷雲の中に入ったら「きゃあ」なんて言ってる暇もなく丸焦げでしょうけど。


現実逃避の余談はここまでにして、私が寝れないって言ったのは正確に言えば見張りがいない状態だと魔物に襲われる可能性があるので眠れないという話です。


いや、溶岩の中や氷河の上で眠れるっていうのならそれ位やって見せろよ、とかいう人もいるかもしれませんが、あれはほんの冗談なので忘れてください。


ごほん、ということで眠れない私は隣の町まで歩く必要が出てきました。

急いできたから仕方がないとはいえ、これは少々辛いです。

とはいえ、私は勇者(笑)なので神の光アインソフという便利な力があるのです。

え?神の光アインソフの能力ってなにって?

ええ、ええ、教えて差し上げますとも。

この力、何と使うと怪我が癒える上、身体機能も向上させてくれるんですよ。


まぁ、大体そんな感じなので普通に生きていく上ではちょっと便利かなぁって感じです。

ええ普通に命かけてまで守ろうとは思いませぬ。


だから譲渡できれば良かったんだけどなぁ。

と言いつつ、黙々と、いやグチグチと歩いて数時間。


脳も含めて全身に神の光アインソフを使いながら歩いていた私もそろそろ限界が来ている気がします。

いや、そもそも、ナメクジメンタル陰キャなんで肉体が疲労を感じていなくても精神的な疲労は着実に蓄積されている訳ですよ。

魂が悲鳴を上げてるんですよ。


もう、歩けない。

無理、寝る。


ていうか、そもそも、歩いて砂漠渡るのが無理だったんだよ。

準備も不足しているしさ。


なんせ、私今パジャマだよ?

王様の謁見の間に来ていた儀礼用の服は流石に目立つかなって思ってタンス開けたらパジャマしか入ってない。

絶望したね。


いや、嘘、それは言い訳。だって私暑すぎるのとか寒すぎるのとか体験したことないし。

私の周りって何時も常温に保たれてるから、服は何でも良かったんだよね。

だから、すべすべのシルクって素材のパジャマしか持ってないんだ。

そもそも、服も必要ないけど。


だって私、裸の時、変な煙出てきて体隠してくれるし。


それも、恥部だけじゃない。全身漏れなく隠してくれる。

一回裸で外に出たら、魔物と間違えられて討伐されかけたし。


いや、裸で外出るって何?自分で言っててびっくりしたわ。

まぁ、子供の頃煙で姿が隠れるのが楽しくて、そのまま外出ただけなんだけど。


子供の頃のお茶目な思い出だね。


まぁ、いいや、お休み。


☆☆☆


眩い光で目が覚めた。どうやら私は昨日の夜を乗り切ったらしい。

これも日頃の行いか。


取り敢えずのど乾いたし、水飲も。

背負ってきたリュックサックから水筒を出す。

とはいえ、水もそれ程量がある訳じゃない。大切に飲まないと。


あ~あ、偶々この下に地下水が流れてて、バッて溢れてオアシスにならないかなぁ?

私がそう思ったのも束の間、ドンッという音と共に水が溢れ出す。

あったわ地下水。成ったわオアシス。


その場にどんどんと水が溜まり、小さなオアシスが出来上がる。

これが日頃の行い?


ま、いいか水汲もう。

私は水筒に水を汲む。


いやぁ、良かった良かった。

私がそう考え前を向くと、何と薄っすらと遠くに町が見える。

遠いと言っても、多分三十分も歩けば着く距離だ。


こんなに歩いてたのか。

私、意外と根性あるかも?

何か引っかかるものがあるけど………まぁ、別に不都合もないし、いっか。


私はオアシスの水をちょっとだけ汲んで軽く水浴びを済ませてから町へと向かった。


☆☆☆


街の入り口まで来た私は部屋で見つけた何かの布を顔に巻いておく。当然目元以外隠れるエージェント仕様だ

これでも一応有名人枠ではあるのでこうして顔を隠しておく必要があるのだ。


因みに、別に怪しくは……いや、十分怪しいか。

でも、狩人の中にはファッション性を大切にする人もいるから、顔を隠しているのは別段可笑しくない筈だ。


「通れ」


ほらね、門番の人も直ぐ通してくれたし。

これで、街に溶け込むことだってできるって訳。


「ほらほらぁ、どけどけどけぇぇぇぇぇぇ‼」


私がそう自身に言い聞かせていると前から尾を噛む蛇ウロボロス蛇の円環ウロボロスの中心に瞳孔のようなイラストの入っているテーブルナプキンを付けた男が現れる。


いやっ、全く馴染めてない奴おるって‼

道理でこのくそ怪しいエージェントファッションが通用するわけだよ。

特に顔を隠すように布を巻いていても理由聞かれない筈だよ。


もっとずっと怪しい人がいるもん。

何なの、あれ?


「おっと、お前たちはまさか外から来た客かぁ?なら教えてやろう。俺は秘密結社蛇の瞳の構成員の一人、レフだぁ。蛇の瞳はこの特性のテーブルナプキンを付けているから見かけたら用心するんだなぁ。ヒヒ」


いや、秘密結社なのに自分から名乗っちゃったよ‼しかも、構成員の見分け方まで教えてくれたよ!

ていうか、そのナプキンが秘密結社の徽章で良いの⁉

もっとカッコイイの無かったの⁉


腕章とかさ。


「腕章だと?」


あ、ヤバい、心の声が漏れてた。

私は無表情、ノーリアクションながら内心汗だらだらになる。


何て言えばいいんだ。完全に目を付けられたよ。

私がそう思っていると、男が口を開く。


「腕章では食事をしたとき汚れるではないかッ‼」


そっちー⁉


いや、そっちってどっち?リッチかよ‼


普通ご飯の時ナプキンなんてしないよ!

するの高級レストラン入った時くらいだよ!


若しくはプグナに伝わる伝説の料理『辛ぃうどぅん』を食べる時はあると便利だよねってくらいだよ‼


因みにプグナに伝わる伝説の料理『辛ぃうどん』はプグナの名もなき美食家とグロリアの名も無き美食家が最高の『うどぅん』を食べたくて共同で開発したという伝説の料理。


私も食べたことが無い。というか、既に失伝した可能性も高い料理だ。

今では白い服で食べると必ずシミになるという記録しか残されていない。


美食家二人も無名だったため親類縁者を探すことも出来ない伝説の料理。


まぁ『辛ぃうどぅん』のことは置いといて問題はこの男だ。

料理に執着があるのか男は更に喋りだす。


秘密結社の目的とかの最重要機密を。


「俺たち蛇の瞳はなぁ、魔眼の力を使って他人ひと様から食料を搾取し楽しく食っちゃ寝生活を送るのが野望なんだよ。そしてなぁ、ゆくゆくは伝説の料理『辛ぃうどぅん』に辿り着くんだ」


いや、野盗やないかいっ‼

何が野望だよ!他のもっと高尚な野望を掲げている秘密結社に謝れ‼

『辛ぃうどぅん』に謝れ!


そんで折角才能に恵まれてるんだったらしっかり働け!

才能使って一生懸命働いている人から搾取すんな。


って言えたらカッコよかったんだけどなぁ。

私陰キャだからそんなこと声高々と言えないよ。


そんな風に尻込みしていると、男がそろりそろり男の前から立ち去ろうとしていたおばあちゃんを睨む。


「喝っ」

そして、そう叫ぶとおばあちゃんが持っていた紙袋が発火する。

おばあちゃんは持っていた紙袋を咄嗟に落とす。

中からは林檎が出て来た。


……なんて酷いことを。


「ククククク、おいおいおばあちゃんどこに行くっていうんだ。」


男はそう言うと林檎を拾っていき、その中の一つに噛り付く。


…酷い、何でこんな酷いことが出来るの!


「ああ、ああああああ」

「おめぇの林檎は俺が美味し食ってやるぜ」

「儂の林檎が、焼き林檎になってしもうたわい‼」


いや、そっち⁉

焼き林檎になったことよりも林檎を奪われたことを悲しもうよ!


「クククク、フルーツポンチでも作ろうとしてたのかい?」

「いや、アップルパイじゃ。」


アップルパイなら焼いても良いんじゃないの?

駄目なの?私料理疎いから分かんない。

でも、煮詰めてるけど、炒めてもいるよね。あれ?


ならやっぱり良いんじゃないの?

そんな私の混乱を他所に話は続いて行く。


「なら、これをやろうおばあちゃん。」


男はそう言うと懐からレモンを取り出す。


「なっ⁉これで儂に一体何を作れというんじゃ!フルーツポンチか⁉」


いや、レモンパイじゃないの?


「ククク、まぁ良い、好きなものを作れ、取り敢えずこの林檎は貰ってい…………はっ‼」


な、なんだ⁉

男は話の途中で私の方を向く。

まさか私が魔眼の勇者だとバレたの?


ま、不味い。だとすれば私はここであの男に立ち向かわなくてはいけない。

流石に目の前で行われた悪行を魔眼の勇者わたしが野放しにしたら勇者の看板に泥を塗ってしまう。そんなことになったら皆に合わせる顔が無い。


ただ、私の予想はどうやら外れたらしい。


「…お前のバックからいい匂いがする。さぞかし良いものが入っているんだろうなぁ?」


はっ⁉しまった。

私はリスが頬に食べ物を詰め込むみたいにバックに取り敢えず好きな食べ物を入れたくなってしまう性格。

今回も取り敢えず凄く美味しかった干し肉とかパンとかクッキーとか『するぅめ』とか保存用スープとかケーキが入っている。

こいつ………私のご飯を奪う気だ!


「だったら、何?」


私は精一杯の威嚇をする。出来るだけ冷たい声で突き放すように言った。

ただ、男には効果が無かったのか、ニヤリと笑う。


「奪ってやるぜ。喝ッ」


男がそう言うと、何か知らないけど男が吹っ飛んでいった。

一体何が起こったんや(困惑)


その後、男はピクリとも動かなった。

死んで……………いや、息はしてる。生きてるか。


ま、そう思って息を吐きだそうとした所で私の前に闖入者が現れる。


「ほう、まさか我が蛇の瞳の構成員が一撃で葬られとはな。しかも、同じ魔眼使いに」


新たに現れた男は黒髪に黒縁眼鏡のそこそこ顔が整った男だった。

当然ナプキンはしているけど。


というか、私が魔眼持ちだって一瞬で見抜いたの?


後、別にその人死んで無いからね?


「まぁ良いだろう、仇は討ってやる。最初に言っておく俺は魔眼の勇者同様四種の精霊を従えているフォースエレメンタリストだ。」


いや、フォースエレメンタリストとかいう単語今日初めて聞いたけど、何?四種の精霊が内にいますって言えば良くない?

何でちょっと専門用語っぽくしたの?


後、その人死んで無いからね?


「死ねぇぇぇぇぇぇ、喝っ!」


また出たよ「喝っ」ってちょっと途中から気になってたんだけど、その掛け声いる?

それ言うと魔眼使いやすくなるの?


今度やって見ようかな?


と思っていたら、眼鏡の男も吹っ飛ばされた。


「っまさかサブリーダーがっ‼」


最初に吹っ飛ばされた男が驚愕の声を上げる。あなた起きてたんだ。

というかサブリーダーなんだ。秘密結社だし、せめて副総帥とかの方がそれっぽくない?


まぁどっちでも良いけど…………。

と、ここで新たな闖入者が現れた。


「ふっまさか、サブリーダーまでもが倒されるとはな。よくぞ来た流離いの魔眼使い‼この場こそ俺とお前の決着には相応しい」


いや、ここ街の入り口ですけどね?

別に地下洞窟でもなければ闇の神殿でもないし、塔の天辺でも無いからね?

情緒もへったくれも無いよ?というか、凄い因縁があるみたいに言ってるけど今日が初対面ですよね?

別にあなた方の計画を阻止したりもしてないですよね?


「俺の能力は闇。あの魔眼の勇者ですら持っていない闇の精霊こそ我が魂に宿りしスピリットエレメンタル。さぁどう破る?」


「我が魂に宿りし」って言ってるのにスピリットエレメンタルって言い直してるよ。意味が重複しちゃってるよ。

後そんなに魔眼の勇者引き合いに出されても困るよ。


別に私魔眼使いのレジェンドになったつもりも無いよ。


「先手は貰う‼ダークハンド、喝っ」


技名言ってから「喝っ」って言ったよこの人。

いるの?その掛け声。いや掛け声がいるなら技名は言わない方が良いよ。

ダークハンドとか特段カッコよくもないし。


ただヤバいかもしれない。闇の手が、いやダークハンドが私に迫ってくる。

ど、どうすれば。


そう思っていたのも束の間。

私の目の前がピカッと光るとダークハンドは消えていた。


「何⁉ダークハンドを掻き消した?光の精霊?いや、炎の精霊が放つ炎の光でダークハンドを搔き消した?」


よくわかんないけど、大丈夫そうだ。


「ふっ、ならこれならどうだ!無限ダークハンド!喝っ」


今度はさっきとは比べ物にならない数の闇の手が迫ってくる。

しかし、その手はさっき同様まばゆい光に掻き消された。


「な、なにぃぃ!クソッ、喝っ喝っ喝喝喝喝かつかつかつ‼」


男が闇の手を放つたびに、ピカッと辺りが光、闇の手を掻き消していく。

私は男にゆっくり近づき、取り敢えず神の光アインソフで強化した拳を叩きこんだ。

男は十メートルくらい吹っ飛ばされた辺りで止まった。


こうして、秘密結社蛇の瞳は一人の流浪の魔眼使いによって解体された。


私は街の人に感謝され宿屋が無料になり、更に食べ物も一杯恵んで貰った。

後、移動用の魔物も用意して貰った。


後、蛇の瞳のメンバーだけど彼らは改心して街の為に頑張るそうだ。

更に言うとあの三人しか構成員はいなかったんだとか。まぁ、魔眼持ちって珍しいしね。



☆☆☆


私は夜宿屋を出て、街の外の砂漠に向かう。

そして、砂漠で気合を込めて


「喝っ‼」


だけど、辺りで何か異変が起こるとかは無かった。目からビームも出なかった。

やっぱり掛け声は関係ないね。

もう寝よ。

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