16話 サンタクロースは僕でした!!



「皆んな、ステージに釘付けさ!今から最高のショーをするんだからー!!」


 音楽が鳴り出す、スポットライトは僕だけに集まる。そう、この喜劇の主役は僕なんだ!この僕、シャーデンフロイデが!!


 

「――シャーデンフロイデ!!」


 

「なんだよ、いきなり大きな声なんか出しちゃって……そんなに僕に再会できたことが嬉しいかい?ビス・クーラヴィースー!そして……面と向かって会うのは初めてだね永劫の化身君?」


「愉悦の化身……シャーデンフロイデ――我と会うのは初めてではないぞ」


「あ、ごめーん!イーオン君!君、影が薄すぎてさー忘れちゃってたよー!はほはほははははははほははははは!」



――愉悦の化身、シャーデンフロイデはケタケタとその場で笑い出した。静寂の中、気味の悪い笑い声だけが響く。



「あーあ……さあ、本題に入ろうビスケット君と永劫君。……突然だけど、僕は君たちを野放しにする気はないんだ。何せ、君たちはこの白髪の男を殺す気だろ?僕が書いた脚本にはそんなこと書いてない。だから、アマデウス・シルウィウス・コリウスを殺すっていうアドリブはやめて欲しいんだ。わかるかな!?そこで、ここは公平に平等にこの場にいる僕以外の全員を殺そうと思う!そして、また12月25日のクリスマスを始めて欲しいと思うんだ。なかなかいい提案だろ?」


「だが、愉悦の化身よ。其方には時間を巻き戻す力は無いはずだ。どうするというのだ」


「秘密さ――」



 シャーデンフロイデがそう言うと、一気に体に衝撃が走った。崩れていくファルサの家、俺たちは瓦礫に押し潰される。


 

「じゃあ――今日の朝にまた会おう!チクタク!」



 押し潰される体、崩壊する家、瓦礫と肉塊がぐちゃぐちゃに混ざり合う上で鼻歌を歌う愉悦の化身。彼にはこの光景がどのように映っているのか、誰にも理解できない――常にスポットライトは彼に向いている。


 はあはあと荒い呼吸をしながら最悪な目覚めをする。もはや、日課のようなものになっていた。カーテンを開けると大きな鴉が俺を見下ろす――見慣れた光景、聞き慣れた会話。

 気づけば12月25日の朝に戻っていた。今度は何で……?何で戻ってきた?あいつが首を締め付けてきて、ビスが部屋に来て……わからない、わからない何が何だかよくわからない――俺は溜め息を零す。

 いつも通り、一階に行けば新聞を広げた父さんの姿があった。



「Merry Christmas!言うのが遅れてしまったけど、まあ許してくれ。フリー。フリーとベラにクリスマスプレゼントがあるんだ」

 

「クリスマスプレゼント……」

 

「ああ、この中に入ってるから」



 いつもと変わらない……繰り返すだけだ。ただただ12月25日という最悪の日を。

 2階に上がると今起きたばかりの寝ぼけたベラがいる。特徴的な長い白髪がぐちゃぐちゃになったベラが鮮やかな桃色の目で見つめてくる幼馴染であり、友人であり、俺の想い人がいる。


 

「あれ!?巨大なケーキが!?たくさん、たくさん……ある。ん?フリー?どうしてケーキになってるの?」

 

「……。寝ぼけすぎだ」

 

「はっ!なんだもう朝かー。おはよー」

 

「おはよう。すぐ降りろよ。飯が冷めるぞ」

 

「わかった……」


見ているだけなのか?俺は……皆んなが死ぬのを。父さんが朝、此処で家と一緒に潰れて死んで――ファルサとベラとルナも今日死ぬ。駄目だ、今すぐ俺はビスに会わないと!!


「フリー?どうしたの?」


「逃げろベラ!!とにかく逃げろベラ!!俺のことはいい!!逃げ続けろ!!」

ベラの肩を勢いよく掴んで揺らす。


「どうしたのフリー、おかしいよー」


「わかったなベラ!」


 

 そう言うと俺は急いでビスの元へと向かった。畦道を駆け抜けて、燦々とした太陽の影の下俺は走っていく。

 ビスに会わないと。心の中に巣食う不安が俺の行動力を駆り立てた。とにかく何か行動しないと俺の心は壊れてしまうような気がしたのだ。だが、果たしてビスは家にいるのだろうか?もし居なかったら?どうする?不安が心を蝕んでいく。

 走っているとついにビスの家の前に着いた。門を開け、玄関の扉を勢いよく叩く。


「おい!ビス!いるか!?」


叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く――手の甲に木の破片が突き刺さり血が滲む。出てくれ出てくれ出てくれよビス・クラヴィス!!

 ガチャ……扉は開いた。


 

「フリーどうしたんや?俺の助けが必要か?大丈夫や!フリーは俺の親友やからな――皆んな助ける!助けられるで!!」


「……」


「どうしたんやフリー、ポカンとして……なんかあったんか?話聞くで?」


「なあ……」


「なんや?フリー?」


「――お前が何で此処にいるんだ、サンタクロースのお兄さん」



 ああ、本当に理解が出来なかった。声は完全にビスだったのに、見た目はあの時ローストターキーをくれたサンタクロースのお兄さんそっくりなんだから。赤と白のサンタクロースの衣装、ビスではない違う何か。


 

「これが絆ってやつかあ!なあ……フリー?」



 そう言うとそいつは口角が異常なほど引き伸ばす。サンタクロースというよりかは俺はそいつがピエロに見えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る