9話 瞳の裏に映る生きた景色を
「はあ、眠い……」
「君は夜更かしし過ぎなんあ。ほら、後もうちょっと」
「父さん、早く登って」
「……ったく、この神社、階段の数多すぎるんだよなぁ。疲れて笑えてくるぞ。確か、創造神のアヴィスとか言う神様が祀られてるんだっけ。拝んだら何かくれるのか?」
「神社に行く途中で言うことじゃないだろ。祟られるぞ」
「そうか……ま、祟られてもぶっ倒せばいいだろ」
俺たち家族はとある神社へと拝みに行っていた。特にこれといった目的はない、単なる暇つぶしだ。道中、扇を買った。それでも、今は昼過ぎ……夏なので太陽がギラギラと照ってとても暑い。すごい暑い。来たことを皆後悔し始めていた。
「おっ、鳥居じゃん」
「やっと、着いたんあ」
目の前には白い鳥居、奥の方には本殿。白い鳥居と本殿の真ん中には逆さになった黒い鳥居がある。神社の周りには深緑の木々が生い茂る。かなり、変わった神社だった。だが、思っていたよりたくさんの人が参拝しに来ているみたいだった。
「こんにちは。今日はいい天気ですね。参拝をしに来たんですね。いいですね」
やけにニコッとした顔をしている男の人が話しかけてきた。純白の斎服を着ている。神主の人だろうか?
「申し遅れました私、この神社の神主をしている者です。……よく暑い中、登って来られましたね。すごいですね」
そう言ってまた微笑む。
「あー、そうだな。こんなに綺麗な神社があるなんて知らなかったよ。暑い中、頑張って登って来た甲斐があった」
カルロが親しげに話す。
「どうぞ、お気軽に参拝して行って下さい」
そう言って白い斎服を来た神主は神社の奥の方に去って行った。
「神主の人はみんなあんな感じなんあ?」
「さあ?」
すでに来ている人たちの列が賽銭箱まで出来ていた。俺たち家族は列に並び、賽銭箱まで少しずつ進んで行く。やっと着くと父さんから貰った5円玉を賽銭箱に投げる。そして一礼一礼一礼。
(来年も家族皆んなで来れますように)
そんなことを俺は願う。
参拝が終わると父さんが口を開いた。
「じゃ、帰るか」
「うん」
「いや、海行こう海」
「海!?」
「たまにはいいよね海。もう夏だし」
「じゃあ行こう!」
父さんは謎に行動力がある。それは時に周りを最高な気分にさせてくれる。そんな父親に感謝だと俺はしみじみ思う。
「――おい、ソル!蟹がたくさんいるぞ!この砂浜!」
「すごい量だ」
「蟹狩りするよ!ソル!」
「うん!」
目の前には無限と思える量の蟹たちが砂浜の上でくつろいでいた。それを父さんと俺が追いかけ回して遊ぶ。母さんは網を持って1人、追い込み漁をしていた。まともな奴が1人もいないその情景はまさに混沌そのものだった。
微かに潮の香りが漂い、空と海が繋がって見えるほどの群青が広がっている。
しばらく海で泳いだり、蟹を追っかけたり、砂の城や蟹を作って俺たちは遊んだ。1日の終わりを知らせるように青い海はもう緋色の海に変わっている。もう夕方になって、あたり一面、暖色系の色合いに染まっていたのだ。俺は父さんと砂浜に座り込んでただ日が落ちる様子を眺めていた。
「たくさん遊んだな」
「久しぶりに海に来たからかな」
「なあ、ソル」
「?」
「ここの夕焼け綺麗だろ――実はな、昔、ここで父さんはファルサにプロポーズしたんだ……。あの時は、かっこつけて、今度は家族として来ようとか言ったけ……。まあ、ソル、俺が言いたいのは今日その約束が果たせたってことだ。ありがとうな、ソル――」
緋色の浜辺に、キラキラとした海の波に、2人の影。あの日あの時の思い出――
「ほら、言っただろ。がっかりさせないって」
「ふふ、ありがとう。カルロ」
緑の小さなダイヤモンドがついたネックレスを、ファルサに。
「今度は家族として来よう!」
「絶対だよ?」
「ああ、必ず来よう。この約束を果たした時、きっとその日は最高な日になるよ。そして――笑うんだ」
2人の恋人は砂浜を駆けていく――
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