10話 醜悪の化身たち
それから、さっきいた砂浜から家までの道のりを家族3人でたわいもない話をしながら歩いていった。父さんはたまにはいいこと言うな、と俺は思う。やる時はやる男、それが俺の父親、カルロ、コルウスだ。
――しばらく足を進めていくと俺たちの家がある山の麓にだいぶ近づいてきた。
「ん?何あれ?」
「何だろう?」
なぜだろうか、赤い大きな光が山の麓に見える。
もしかして、まさか――
「嘘だろ、火事だ!家が燃えて……」
気づいた時には走り出していた。父さんと母さん驚きと恐怖の表情をしながら駆けて行った。
「まだ、間に合うかもしれない、急ぐぞ!」
走る走る走る走り続けた。なんで家が燃えているのかよくわからなかった。なんでだ、なにがあった?
やっと家に着いた。全焼だった……何もかもが燃えている。激しく、火花を散らしながら猛炎が上へ上へと登っていく。あるのは醜悪な炎だけ。
「なんで……なんあ?」
ファルサは悲しみの涙を頬に伝わせた。ただただ、眺めることしかできない。そんな時間がずっとずっと続いている。自分の無力さに嘆くことしかできなかった。
メラメラメラメラと、緋色の世界が目の前で広がっている。
「まだ死んでないんですね。すごいですね」
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち「「すごいねぇ」」ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち「「頑張ったねぇ」」ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち「「よくやったねぇ」」ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち「「生きてて偉いねぇ」」ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち
拍手と賞賛の声が響く。
「は……?」
カッカッカッカッカと馬に乗った集団が押し寄せてくる。
暗闇から炎に照らされて出てきたのはたくさんの怪士の能面だった。着物を着た奴らが17人ほど、その中の1人は白い斎服に翁の能面をつけている。翁のニコッと笑った顔が不気味だった。
「お前は!今日神社でいたかんぬ……」
「黙って下さい。まだ喋ります」
カルロは妖士に矢で足をひょうふっと射抜かれた。2本の矢が右足に容赦なく食い込む。
「痛い!ぁぁぁあぁあ!!」
「偉いですね。家に居ると思ったのですが……殺し損ねてしまいました。残念です。なので、今死んでもらいましょう」
穏やかな口調で翁が話していく。
俺は少しでも時間を稼ぐため、変に刺激をしないためなるべく丁寧に翁に問う。
「なぜ……私たちを殺すのですか?」
「義務というか大義というか……具体的にいうと我々が崇め讃えるアヴィス様の為ですかね。あなたのお父さん、カルロ・コルウスさんは大罪を犯しました。カルロさんは記憶の現実を改変する鳥核を持っています。それは、この世界の秩序を乱す諸悪の根源のようなものです。なので、今ここで殺して秩序を保つんですよ」
「鳥核?」
「あー、そうですね……。現実改変をできる能力を授ける羽毛の玉のことです。まあ、知らなくても死ぬから大丈夫ですよ。安心してくださいね。……もう質問タイムはいいでしょう」
「待ってくれ!くそっ……。能面糞野郎が!」
カルロは充血した目を能面の集団に向けた。
「まだ、叫ぶ元気があるのですね。元気なのはいいことです。じゃ、始めましょうか!」
翁がそう言うと数十人の妖士たちが弓を構えた。
貪欲だ。貪欲な目がそこにはあった。
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