4話 胡蝶の夢
俺は喉の渇きと頭痛で目を覚ました。
時計を見ると驚いた。時計の針は丑の刻、丑三つ時のど真ん中だった。
「なんかこの時間帯は怖いな……。さっさと水を飲んで寝よう」
俺は足早に自分の部屋から一階へと降りた。
「さっきまで、盛大にパーティーしてたからなー。まだ、興奮してるのかな……」
交感神経が副交感神経よりも優位になっているのだろう。俺は目が異常に冴えていた。
一階にある台所につくと、水がぽとぽと滴る音がした。
所々、茶色っぽい錆びがあるきつく閉まった蛇口を捻り水を出す……。
気のせいだろうか?さっきから小さな音ではあるがおどろおどろしい不協和音が聞こえてくる。少しずつ、だが着実に、その音はこちらに少しずつ近づいて来ているのがわかる。わかった。後ろからだ。後ろから聞こえてくる。俺は勇気を振り絞り振り返る――
「やあ」
そいつはそう言って手を差し伸べてきた。そいつは……ベラだった。
「うわぁああ!!……驚かすなよ、ベラ!」
俺は腰を抜かしてその場に倒れこんだ。ベラの白く長い髪がより一層怖く見えた。
「はは!驚きすぎー」
ベラの手には古いオルゴールが握られていた。
「どうしたんだよ。それ」
「……オルゴールのこと?なんか落ちてた。というかなんでまだ寝てないのー?」
「ちょっと喉が渇いて、水を飲もうと思っただけだよ。」
「そう、私はもう寝るねー。おやすみ!」
ベラは自分の部屋に戻っていった。
ベラを家に泊めるべきじゃなかった。この調子だといつ心臓が止まってもおかしくない。
「絶対……絶対!やり返すからな……」
その時俺は覚悟を決めた。
「リーンリーン」
鈴虫が鳴く。ゲコゲコゲコゲコゲコとカエルも合唱している。夏の大合唱。深夜は静かだなあ、と思い自分の部屋に戻り俺は床に就いた。
「なんか疲れたなぁ」
いつの間にか俺はぐっすりと寝ていた。
――幾つもの言葉、概念、感情が脳にこびりついている。忘れられない忘れたい忘れちゃいけない。
「死、生、存在、神聖、差別、断罪、神、恐怖、虚構、崇拝、会心、虚無、警告、迷走、記憶、暴力、老衰、回生、破滅、闇、嫉妬、憤怒、美、疫病、地獄、強欲、平和、傲慢、夢、虚偽、諸悪、神秘、哀愁、永劫、色欲、報復、知恵、邪悪、至高、情弱、未来、虚飾、自由、空間、束縛、至福、憂鬱、過去、果断、遵守、戦争、呪縛、天国、契約、そして、現在、果敢、苦痛、幸福、空白、孤独、暴食、模倣、快楽、信実、怠惰、醜悪、可能、軽蔑、想像、不滅、正義、平等、安寧、殺戮、事実、混沌、信頼、天使、転化、復讐、消失、疑問、精神、神威、終焉、悪魔、敬愛、冷酷、愉悦、親愛、絶望、始祖、支配、寵愛、希望、不幸、幸運、化身。今言った98の化身以外にも沢山いるんだよ、フリー。これから先、君は沢山の化身と深く関わって生きていく――覚えておいて損はないよ」
「わかったよ、フリー!」
「何か夢を見たような……」
何かが心の中を渦巻いている。俺は目を覚ました。時計を見ると時刻は11時ぴったり。目覚まし時計なしでぴったり11時に起きれるのは一種の才能なんだろうか。
「忘れちゃいけないことがあるみたいに渦を巻いている。どんどん膨らむこの重い思い……」
俺は大きく深呼吸をし、カーテンを開け、窓を見ると太陽はもう顔を出していた。空には大きな大きな鴉が飛んでいた。
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