3話 クリスマスパーティ


「母さん、ピザとサラダとクリスマスケーキとローストターキーの準備は大丈夫?あと、お皿とか飲み物とか」



「えーと、こっちは大丈夫。フリーは部屋の掃除とかは大丈夫?」



「ああ、大丈夫!こっちは完璧だ。床とか壁とかが舐めれる程度にはね」



「ふふ、いいね」



 俺たちフリーとルナは今夜12月24日、コルウス家で行われるクリスマスパーティの準備をしていた。今夜はクラヴィス家、コリウス家、コルウス家……と沢山の人が来るから、母さんも俺も楽しもうと張り切っている。一年に1回しかない特別な夜、かなり楽しみだ。

 俺たちの故郷は今、今年一の盛り上がりを見せている。あちらこちらの家はイルミネーションでライトアップされ、眩い希望の光がこれでもかと言うほど真っ暗な聖夜を照らしている。どんなに青い憂鬱や真っ黒な闇を抱えている人もきっと今夜は違う色を求めてしまうような、そんな特別で大きなものを感じる。

 緑、赤、青、黄、白……色とりどりの光と大勢の人々の愉快で陽気な話し声。


「Merry Christmas!」

「Merry Christmas!」

「Merry Christmas!」

「Merry Christmas!」


 何回聞いただろう、聞きたびに今日は特別な日なんだと認識させられる。



「――フリー、ベラが来たよ。迎えてあげて」



「……!もう来たのか!」



 俺は急いで玄関に向かう。ベラの奴、思っていたより早いな……。



「やあー?フリー」



 ベラはハートのサングラスに赤と緑のハットを被り、吹き戻しを咥えていた。ピーとやかましい高い音が鳴り、巻かれていた笛が伸びる。そして、吹くのをやめるとくるくるーともとに戻っていく……。



「ベラお前は浮かれすぎじゃないか?」



「へへ、そうかな?」



ガチャ、と音がする。また誰が来たようだ。



「やあ、フリー」



「ビス……!」



 ビスは星型のサングラスに青と黄のハットを被り、吹き戻しを咥えていた。ピーとやかましい高い音が鳴り、巻かれていた笛が伸びる。そして、吹くのをやめるとくるくるーともとに戻っていく……。



「ビスお前もなのか」

「ちょっと、張り切りすぎてしまったよ」



ガチャ、と音がする。また誰が来たようだ。


「やあ。フリー!」

「サンタクロース!?」

 サンタクロースは三角のサングラスに青と赤と黄のハットを被り、吹き戻しを咥えて……以下略。



「――じゃあ、せーの……Merry Christmas!!」



皆んなで各自、シャンパンやジュースを上に掲げて乾杯をする。



「いやー、酒はうめーなあ?最高だー!おいフリー、めりーくりすまぁーす!」



 酒臭い……。ビスの父親は俺の肩を組み、思わず俺が持っているジュースが落ちそうになっているのを横目に臭い息を吐きながら呑気で陽気なことをベラベラと喋っている。



「フリー、お前ももう15歳だろ。シャンパンでも飲むか?……冗談だよ!冗談冗談!」



 ビスの父親、いや酒飲みはゲラゲラと1人で腹を抱えて笑っている。大人になると皆んなこんな酒臭い奴になるのか……?俺は疑問でしかなかった。

 ふと、周りを見渡すと皆楽しく喋っているパーティ会場には個人の壁を越え、みんなが一心同体になっている幸せな時間が流れているのを感じた。



「最高だな――」


「最高?」


「いや、なんでもないよ……」



フリーは恥ずかしがった顔をベラに見られないように思わず下を向く。



「そっか……。いいよねー、この雰囲気」


「そうだな」


「……」



 お互いの間に静寂が続く。もちろん、気まずいとかそんなことじゃなくてポジティブな意味で、だ。お互いに信頼と安心を持った関係どうしの人間だけの専売特許ってやつなんだろう。

――ふと、互いに口を開く。


 

「ベラ……」

「フリー」


 

「……いいよベラ、先に言っても」


「フリー」


「……?」


「その、フリー。これ!」



ベラはポケットから綺麗に包装された箱を取り出し、俺のお腹に押し付ける。そうか、クリスマスプレゼント。



「ありがとう…!ベラ」


「へへ、どういたしましてー」


「……その、ベラ」


「?」


「その、あの、この……」


「んー?」


「ベラ!」


「!?」



俺は勢いよく、だが、丁寧に、クリスマスプレゼントをベラに渡す。



「その……プレゼント?俺からのな……。渡すタイミングが被ってしまって中々渡せなかったんだ」



ベラは一瞬呆然とした顔をしたが、それもすぐに優しい笑顔に移り変わった。



「ははは、こんなことあるんだねー。……ありがとう、フリー!」


「はは……そうだな!」

 



「――じゃあ、部屋を暗くしようか」

「かちっとな」

「じゃあ、蝋燭に火をつけよー」

オレンジ色の灯りが一つ一つ付いていく。

 



「おいしいぞ、これ」

「ビス、お前食べ方汚すぎるだろ。ほんと昔から変わらないな」

チョコケーキをスプーンで掬い、口に運ぶ。




「皆んなまた来ていいからね」

「もう帰るのかー。酒……」

「帰るで、親父」

皆、家へと帰っていく。




「ベラが泊まる!?」

「そ……、フリー、遊びすぎないように、ね」

「わかってるよ!それぐらい……」

俺は……。

 



「ローン!」

「マジかよ……」

「大三元、国士無双、四暗刻単騎!はい、これで私の勝ちだねー」

「ベラ、お前は天才か?」

俺は……。




「おやすみ」

「ああ、おやすみベラ――」




俺は……ベラのこと――

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