2話 夏のクリスマス



 眩しい光が目に飛び込んできた。夏はまだ俺を寝させてくれないらしい。



「起きなよ?フリー!もう、12時だって!」



ベラだ。奴が来た。



「なんでお前は平然と人の家にいるんだよ。朝からベラはごめんだ」



「そんなこと言わない。傷つくよー」



「それは残念。母さんはいる?」



「いるいる、とっくに昼ご飯作ってある

よ。早く食べよー?」



「だから、なんで家族づらなんだよ」



俺は呆れたように言った。



「早く降りてこないと、昼なしだから!」



 寝起きぐらいゆっくりさせてもらいたい。切実にそう思う俺だった。俺は一階に降りると、茶色い机にはミネストローネとパンがあった――

 俺は椅子に座って食事にありつく。お腹に何もない状態で食べるミネストローネとパンは美味しかった。もちろん、夏に食べるのは気持ち悪い気がするけれど。



「さあ、ベラもお食べ。今日はクリスマス・イヴだからねー。夜はいつもより豪華にしていろんな人を招こうかしら。もちろん、コリウス家のみんなも遊びに来ていいからね?まあ、コルウスとコリウスだし、家族みたいなものかな」



母さんはいつにも増して饒舌だった。



「ありがとうございます。遠慮なく遊びに行きますね!」



相変わらず、さっきからベラは上機嫌だ。



「母さん。今夜はお父さんは帰って来るよね?」



母さんはパンを飲み込んで言った。



「うん。そのことなんだけどね。今日はお父さん帰って来れないらしいの。だから今夜は俺抜きで楽しく過ごしておいてだってさ」



――父さん、ソル・コルウスは仕事に行っていた。多分、今回も民俗学の研究として"ひもうす"という国に行っているんだろう……。



「まあ、父さんクリスマスなんか興味なさそうだもんな」



「たしかに、それはそうだわ」



 母さんは納得したように笑った。

 時刻は午後1時、ミネストローネとパンを嗜んだ後。外から賑やかな子供達の声が聞こえてきた。どうやら、そろそろ愉快なサンタクロースからのクリスマスプレゼントの時間がくるらしい。



「今年は何がくるんだろう?お菓子の詰め合わせかなー?」



「そうだな、俺もお菓子がいい」



「お母さんは新しいお父さんがいいわ」



 母さんの冗談は笑えない。昔からそうだ。

 玄関から陽気な音楽がながれてきた。赤と白のサンタクロースがコルウス家にもやって来る。



「めぇりぃいいいいいくりすまぁぁあす!さあ今年もプレゼントを持って来たぞ!今年は特別にいい子には大量のローストターキーだああ!喜べ!」



「あら、残念。新しいお父さんはいないの」


「くそっ、ローストターキーだったか……」


「フリーのお母さんは面白い冗談を言うね」



 各々が大量のローストターキーを受け取った。サンタクロースの自腹なんだろうか、どこから大量のローストターキーを準備できるお金が湧いてくるのか……。



「じゃあ、来年もいい子にしてるんだぞー!次は七面鳥をプレゼントしてやるからな」



「肉系のやつしかないのか……」



 陽気な夏のサンタクロースは次の子供達のもとへと去って行った。いよいよクリスマスって感じだな……。



「フリー。申し訳ないんだけど、ビス君の家に行って来てくれる?」



俺の方を向いて母さんは言った。



「ああ、牛乳と砂糖がないんだったけ?持ってこいってことだろ」



「うん、ありがと。あ!いい忘れてた。ベラもフリーを手伝ってあげてねー?」



「わかりましたー!」



「じゃ、行くぞ!!ベラ!クラヴィス家の長男様にメリークリスマスだ!」



俺たちは颯爽とクラヴィス邸へと急いだ。

 こんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんん……。ドアをノックしても誰も出てこない。



「誰かいないのかー?牛乳を取りに来たぞー」



シーンとしていて、家の中からはちょっとした物音すらしない。家主は全員死んだのだろうか?ふと、そんな疑問が過ぎる。



「誰かいないのかな?フリー、ビスは牛舎の方にいるかもしれない。見に行ってみよー」



「そうするか」



 牛舎の方に行ってみるとそこには赤と白の変なやつがいた。そう……赤と白の変なやつはさっきのサンタクロースお兄さんだった。



「変なやつがいるぞ。ん……?サンタクロースか」



「メリークリスマス!また会ったねー」



サンタクロースは俺たちに向かって微笑む。



「メリークリスマス!悪いんだが助けてくれないか……今にも牛のよだれで溺れそうなんだ」



サンタクロースのお兄さんは牛たちに体全体を舌で舐め回されながら言った。



「お兄さんって、お兄さん……。はは牛からモテるんだな。前世はイケメンの牛だったり?」



フリーは無邪気に笑った。



「はは、なかなかセンスのいいジョークだが、今はそのジョークを楽しむ余裕はない。早く助けてくれよ。助けてくれるいい子にはローストターキー、いや、お菓子の詰め合わせをあげるからさ。助けてくれよ。なあ……」



「お菓子の詰め合わせ!?フリー、助けよーよ!」



「助けるか……。お兄さんからはローストターキーをたくさんくれた恩があるからな。それと、お兄さん。さっきの発言、取り消すなよ!」



俺とベラは牛たちに盛大に派手に大胆にドロップキックをかました。



「――なるほどな、それで牛たちにドロップキックをしたと……」


「はい」


「はい……」


 俺たちは土下座をしていた。隣にはよだれまみれのサンタクロースがハンカチでよだれを拭いている。ふと、土下座をしている俺たちを見てサンタクロースは言う。



「まあ、ビス。僕を助けるためにフリーとベラはやってくれたんだ。許してやってくれ」



「まあ、お兄さんを助けるためならしゃーないか……。今回だけは許すわ。で、牛乳と砂糖を取りに来たんやったな。うい、これ。牛乳と砂糖」



ビスは陶器の壺に入った牛乳と砂糖を渡した。



「ありがとう!ビス」



「まっ、貸し1てことで!今日の夜、遊びに行くからな。覚悟しとけよ」



「フリー。行こー。ばいばーい、ビス!」



「ばいばーい。もう牛、傷付けんなよ

ー!」



 時刻はもう7時。暗い畦道を通って、家に帰る。すぐ側で鈴虫が鳴いている。

 もう夜らしい。

 今夜は聖夜だ。

 終わりが近づく――







 

「やあ」





 

「不幸鳥、僕だよ」






「僕思ったんだけどさー。この物語面白くないよね。不幸鳥も飽きてきただろ。こんな、平凡でさ、なんの事件も起もなく結が来るのかもわからない……退屈で見る気が失せてゆくストーリー。何処の国かもわからないのにクリスマスなんか見せられてもって感じだよね!ま、安心してよ!僕がもうそろそろ面白可笑しくしてあげるからさ。ね、不幸鳥――」

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