第13話 一狩りしようぜって誘ったら逃げられた。


 祖父から父と母とにバトンタッチされて一緒に、来客の挨拶周りがほぼ終了したところで、子供達がいる方へおいやられてしまった。

 今後のお家のそれぞれが当主となるのだから、次代同士の顔合わせということなんだけどさ。

 すでにグループが出来上がっちゃってる状態なんですよ。

 これはまるでグループ学習でハブられた子供みたいじゃないですかー、ヤダー。

 主催なのに!

 とはいえ、やっぱりなんだ、貴族の子供は貴族というか。

 きちんとわたしに挨拶する子達がいるのです。

 特に、近隣領地の子達。

 親がしっかりしてんだろうな――……というか、親が脅威に感じているのは『黒き聖域の森』なんだろう。

 ハイドファルトの防衛力が崩れたり、政争かなんかでハイドファルト家が防衛を拒否った場合に被害を被るのは近隣の領地だもんね。

 まあ無難に「お誕生日おめでとうございます」と自己紹介なんかがあとに続くわけだけど。

 近隣領地の子を相手に、どんな感じの領地かどうか聞いて、話を膨らませる。それぐらいはできますよ。

 ぼっち回避、セーフセーフと思っていたんですが。


「本当にハイドファルト家の子かどうかわからないのに、へりくだる必要があるのかしら?」


 お約束キター!

 いるのよね、攻撃的なのが。

 わたしをガン無視して、女子グループの輪を大きくしていた子がわたしにそう言ってきた。

 いやー強心臓だなー面の皮厚いなー。

 ここ、ハイドファルト本城、おまけに今回のこのパーティーの名目は何?

 わたしのお誕生日会なんですよ! 主役のわたしをディスるとか、このアウェーで大将首とってくるって、めっちゃ蛮勇じゃない?


「聞いたことがあるのよ、病弱で先代様の館にいた孫娘なんて嘘っぱちで、ちょっと離れたカーデル領の孤児院で拾ってきたって」


「魔力血統判定、この場でしても大丈夫ですけど?」


「そんなもの、どうとでも細工出来るでしょ」


 そんな思いっきり鼻先をフンって鳴らさなくてもよくない?

 魔力血統判定って細工できるの? アーロンは確かだって言ってたけど。

 実際父上とか母上とかの魔力、わたしに似てて、傍にいて安心なんですけど。


「だいたい、クリスティーネ様のお傍には、わたくしがあがるはずだったのよ!」

「侍女にするには年齢低くないですか?」

「侍女なんかじゃないわよ! 養女よ!」


 養女……。どっかで訊いたような。 

 養子にするなら、多分アルフォンスぐらいじゃないと無理でしょ。アルフォンスは、出会った時から制限をかけてるんだか、かけられてるんだかで、魔法を使えなかった(また使わなかった)んだけど、最近は常時魔力が漏れ出てる。

 一回、大丈夫かって尋ねたら「ヴァルトレード様みたいに、河川氾濫防止の為に堤防作るような大魔法は無理ですが、やはり試したいので時々使用してます」とかで、いろいろ研究というか訓練しているみたい。


「養女ねえ……その魔力で?」


 わたしが小首を傾げて、彼女を見る。

 もうまったく『ない』と言ってもいいぐらいの魔力。

 それでハイドファルトの後継者になるの?

 どっかで感じたことのある魔力なんだよな~この子の魔力。


「な、バカにしてるの⁉ だいたい出自のはっきりしない下賤な貴女が、ハイドファルトの後継者だなんて! 目が曇ってらっしゃるのよ。お父様も嘆いていたわ!」

「貴女の御父上はどこのどなたなのかー」

「ベーレント子爵よ!」


 ……誰それ?

 さっき挨拶周りしたけど、それらしい名前の奴はいなかった……はずなんだけどな……。

 わたしの記憶力減退しちゃってんのかな?

 転生して12歳で若年性健忘症とかないわー。


「昨年、クリスティーネ様に合わせろと騒いだ御仁です」


 わたしの肩に執事の手袋をはめた大きな手がかけられて、低い声がわたしの耳元で囁かれる。

 ぱっと横を見ると、青みがかった銀髪に、琥珀色の瞳――が、アルフォンスと同じだけど……、誰、このイケメン?

 年の頃は二十歳前後だけど。

 わたしの小さな執事はこんな美青年じゃないよ? 幼児だよ?

 でも顔立ちはアルフォンスの面影が残る。

 何これ……。


「ヴァルトレード様が心細いと仰っていたので、アルフォンスが参じました」


 イケメンがそう言ってにっこりと笑う。

 えーちょっと、大人になったアルフォンスってこんな感じになるの?

 なんで大人になってるの? どうやって……もしかして……。


「ま、魔法なの?」


 こそっと大人バージョンアルフォンスの耳にこそっと言ってみる。

 くすぐったかったのかちょっとだけ肩をすくめて、頷く。

 大人バージョンのアルフォンスの笑顔も可愛い、天使か⁉


「こういった場ですので、先代様がこの姿ならばよしとのことです」

「すごい……」


 幻影魔法だよね。

 討伐の為の攻撃魔法とか捕縛とかそっち系の研鑽が最近の魔法でやってることだったけど、こういうのいいね!

 えー性別とかも変えられるのかな? ねえちょっと、そこんとこ詳しく聞きたい。

 面白そう、わたしもやりたい。

 そんでお忍びでアルフォンスと一緒に城下町散策とか是非やりたーい!


「ヴァルトレード様は、魔法のことになると、ご自身が下賤な輩に絡まれたこともお忘れになってしまわれますね。ちなみにベーレント子爵はこの場にはおりませんよ」


 アルフォンスがそう苦笑する。


「え、そうなの?」

「当然です。昨年、このハイドファルト城を騒がせた傍系の端にもかからない男です。この場に招待されるはずもありません。なのに、何故、その男のご令嬢がここにいるのでしょうね?」


 アルフォンスの言葉に、それまでご令嬢を囲んでいた同い年の子達がちょっとずつ距離をとる。


「ああ……どこかで感じたような魔力だなって思ってたけど、昨年、母上に呼びつけろとこの城で騒いだあの男の娘か」


 その言葉を聞いて、ご令嬢を取り囲んでいた子達が、確実に距離をとりはじめるのが見てておかしい。

 ノイマンの『麗しの薔薇と』言われた母上に無礼を働こうしとしたとあれば、物理的に子供でも引くのね。


「親も親なら子も子だな。ここでキャンキャン喚かれても、説得力がないし。魔法ありきのこのハイドファルトで当主の養女になるはずだったとか声高に言うならば、実力を見せてもらわないと周辺領地の貴族も傍系も納得しないでしょう?」


 わたしが一歩進み出てそう言うと、それまでキャンキャン喚いていたご令嬢が黙る。


「証明してみせて『黒き聖域の森』で」


 さあ、狩りの時間だ。

 一狩りしようぜ!


「な! なんでわたしがそんなところに行かないといけないのよ!」


「それはご令嬢が、自分こそハイドファルト家の当主に相応しいと仰ったからでは?『黒き聖域の森』の魔獣を抑えるに相応しい魔力が当主の条件ですから」

「今時、古臭いわ! 魔力を持ち得なくても、魔力を持つ者を従えさせればいいのよ」


 おお~この何とか子爵家のご令嬢の言うことも一理あるな。

 しかし、それが通る土地柄ではない気がするのよね。ここ。


「しかし、この場でそれを仰る方に、それだけのご器量はないと思われますが?」


 あ。うん。アルフォンスの方が正しい。

 いくら魔法バカのわたしでもわかる。

 もっとズル賢くやるならば、次期当主と言われたわたしをヨイショするぐらいに近づいて、現当主である父や母、先代の祖父様の信用を買ってから、わたしを追い落とす方が確実だと思う。

 この周囲からちやほやされたいだけのこの子には、それをする忍耐強さがない。

 まずそこから無理。

 今すぐに、手っ取り早く、何もかも欲しいんだろうな。

 どれだけ甘やかされたんだろうか。


「ここはハイドファルト、魔力を持って魔力を制するこの土地で、わたしを従えさせたいなら、先代や現当主を凌ぐ魔力を持たないと、わたしは諾としない」


 ここにきて教えられたのはまずはなによりもそれ。


「ベーレント子爵令嬢、『黒き聖域の森』に一緒に参りましょう?」


 わたしが手を差し伸べるが、彼女は『黒き聖域の森』でみかけるアルミラージよりも速い逃げ足で、その場を離れて行った。

 あらら……いますぐにって言ってないのになー……。

 わたし的には、こんなパーティー抜けて討伐に向かう方が気が楽なんですけどね。

 我が物顔で人の誕生日パーティーで主役を張ろうとしていた彼女が逃げ出すと、子供達はいくつかに別れる。

 彼女を追って行った子達もいるその子達の家は、アルフォンスが調べるだろうけどね。



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