第12話 誕生日パーティーってもう少しほのぼのしたものじゃありませんでしたか?
辺境伯爵家の跡取り娘、十二歳の誕生日――。
この領城のあるハイドファルトの街はお祝いムード。
そうでなくても、武名高いハイドファルト家の跡取り娘は、当主譲りの魔力を有し、幼いながらも領軍と共に、『黒き聖域の森』にて魔獣を屠る。
魔力ある強い次代。
ハイドファルト領の平和と繁栄を約束する次代に、期待している面が大きい。
そんな次代、跡取り娘のわたしは、単純に魔法使いたかっただけなんですけども。
そしてそんな前評判でわたしはハイドファルト城の広間に、祖父のエスコートで登場する。
「ヴァルトレード、落ち着いているな」
「そう見えますか?」
「アルフォンスから、このパーティーの開催も気が進まない様子と聞いていたが」
「確かに、気が進まないというか、正直めんどくさいとは思っていましたが、これも必要な事なのでしょう? あと不安です」
「不安?」
「にっこり笑ってやり過ごすことが、わたしには少し難しくて」
「そうか……お前は大人びているから大丈夫かと思ったんだがな」
「大人ならいいんですが、子供は直接的ではないですか」
わたしが言うと祖父はわたしの肩をぽんぽんと叩く。
いつもはその大きな手を頭に置いてぽんぽんとするところなのだけど、一応ね、主役としてヘアメイクもしているから、気を遣ってくださったようだ。
「で、表向き病弱だったわたしの代わりに跡取りとして、当家へ養子にだそうとしていたお家って、どのくらいありますか?」
「絞ってこのぐらいだな」
祖父が指を三本立てる。
「つまり、ハイドファルト家の当主を名乗りたい分家は三つということですか。その家は『黒き聖域の森』を制する実力をお持ちだからですか?」
「そんな魔力があれば現当主のヴィルヘルムを退けてるだろうよ」
「領地の経済を回すのがお上手とか?」
「そういう才覚がある者が『黒き聖域の森』があるハイドファルト領の当主の座に座ろうなどと思うか?」
「思いませんね、危険すぎる。わたしがハイドファルト辺境伯爵の娘でなければ、どこかもっと平穏な土地で写本師なんかして暮らしいくところでしたから」
「そう言うな、他の家の子供もいる。学校で一緒になることもあるだろう」
学校か~あんまり気が進まないな~。
でもな――アルフォンスのお家を探したいんだよね。
なんだって、あんな小さい子があの『黒き聖域に森』なんかにいたのか。
追い出された?
それとも襲撃されて逃げてきた?
頭はいいし可愛いし魔力も――今は魔法具かなんかで魔法使えないように魔力をガードしてるんだろうけど。
あんなに可愛い子だから、子供らしく常に幸せに笑って欲しいわけよ。
「ハイドファルト辺境伯爵が娘、ヴァルトレードです。お忙しい中、本日はわたしの十二歳の誕生日に足をお運び頂き感謝いたします」
カーテシーをして、祖父と一緒に挨拶周り。
そこでわかったことは……あの小さな執事(従僕見習い)であるアルフォンスの親元は、うちの縁戚ではないということ。
祖父や父の側にいたから、比較対象が違うのかもしれないけれど、それでもアルフォンスの隠してる魔力はそれなりだ。
そんなアルフォンスの制御してる魔力にも及ばない人がほとんどってどういうことよ。
確認する為、縁戚に一人一人挨拶をしていくんだけど、そのうち2/3ぐらいの家がね、必ずといっていいほど言われたセリフが。
「ヴァルトレード様のご回復、何よりでございます。来年は魔法学校に入学とのこと、どうでしょう、うちの息子(娘)を側付きとしてヴァルトレード様の側に置いてみては」
これです。
これを言ってくるっていうのはさ、当主直系の子であるわたしを踏み台にして自分達がこのハイドファルトを治めたいっていう野心が透けて見えるのよ。
もっとあからさまだと、「うちの子を養子にしませんか」っていうのもあった。
異世界の貴族家、こわっ!
こんな様子見てたらさ、アルフォンスのお家さがすところじゃなくて。
もしかして、乳母を唆してわたしをハイドファルトから引き離したのはこうした分家の人達の画策なんじゃないかって思ったぐらいだよ。
それを考えるとどこの家も怪しい~怖い~。
で、そんなことを言ってくる貴族家を一蹴する言葉がね。
「わたしと一緒に『黒き聖域の森』に同行してくださるのですか?」
これです。
魔力あるんでしょ? 一狩り行こうぜ? って振ると尻込みするんだなこれが。
わたしが子供に視線を合わせると、子供泣き出すし、親は「あわわわ」になる。
それでも、『黒き聖域の森』にいかずともうちの子は優秀で~って売り込みもあったけど。
「ヴァルトレードと共に、『黒き聖域の森』で魔獣討伐ができれば、その話は考えてもいい」
祖父と父の一言で悔しそうに引き下がる家がほとんどだった。
それでも、まあ、気は抜けないよね、こういう縁戚。
そんな縁戚とは別に、またちょっと別の緊張を強いられる方々に挨拶をしなければいけなくて、個人的にはそっちの方が気疲れした。
「ヴァルトレード、ハウゼンベルク公爵家の方とアッシュクロフト公爵家の方だ」
ちょっと前まで平民の一孤児として育ったわたしが、王族の傍系の方々に挨拶とか。
高貴な方々の威厳と魔力の圧がぱねえ!!
うちの縁戚、もうちょっと頑張ろうか。
だって「武勇と魔力を誇る」ハイドファルト家なんだからさぁ!
「遠路はるばる。このハイドファルト辺境領へようこそお越しくださいました」
なんとかそう言って、カーテシー。声震えてないよね? ね?
うっすらした前世の大人の記憶がなかったら、棒立ち状態で何も言えないだろう。
「ヴァルトレード嬢の十二誕生日、喜ばしいことだ、なんでも初の遠征でエアレーの群れとクレイジー・ベアを捕獲したとか」
「病弱ときいていたが魔力過多症? なるほどな『黒き聖域の森』の魔素で荒療治というわけか? 思いきったことを。魔力ありきのハイドファルト家らしいといえばらしいな」
そんな公爵家当主の方々のお話を聞くふりをしながら、お二人の魔力の確認をする。
うーん……アルフォンスとは違う感じだな。
アルフォンスは魔力が漏れる程度に抑えられているから、仄かに感じる魔力の色っていうかオーラみたいなものがあるんだけど、このお二方からは、近い感じがしないんだよね。
親族ならば、魔力の感じが似ているかも――なんて思ったけど、そんな気配はない。
祖父と話に興じている当主の横にいる各家の子供を見ても、アルフォンスとは違う。
不敬とは承知だけど、隠し子の線を疑ったんだけど違うみたい……。
「紹介しよう。うちの子達だ」
「ノアベルト・ディータ・フォン・アッシュクロフトです」
「ガブリエーレ・マリア・フォン・ハウゼンベルクです」
アッシュクロフト公爵家のご子息と、ハウゼンベルク公爵家のご令嬢からのご挨拶があったので再びの自己紹介。
世が世なら、この世界では王子様とお姫様だよ。
本当に雲の上のやんごとないお方だわ。
王族傍系っていうけど、王族だよねー。
金髪碧眼だよ二人とも。
親である公爵様達と一緒! 魔力も眩しいっ!!
「ヴァルトレード様は来年魔法学校に入学されるのね」
「はい。学校についていろいろご教授頂ければ幸いです」
声をかけてくださったガブリエーレ様にそう答えると、彼女は微笑む。
「ノアベルトとわたくしは今年入学したのよ。ね?」
「うん。困ったことがあれば、声をかけて欲しい」
……異世界の子供って早熟なのか……こんな中学生とか前世でみたことないよ。
ていうかさ。
ほんと誕生日会ってさあ、もっとほのぼのとしたものじゃなかったっけ!?
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