第6話
「旦那様はお仕事が立て込んでおり零様とのお約束のお時間を少し過ぎてしまうとのご伝言を承りました。大変申し訳ありませんが、こちらで少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
と言った。
「はい。大丈夫です。僕のことはお気になさらず。お気遣いありがとうございます」
そう答えると、
「ありがとうございます。それでは、少しお待ちくださいませ」
そう言って、執事は、左手を胸部のあたりに当て右手は後ろに回し丁寧にお辞儀をしその場を後にした。
零は、執事が出してくれた香り高い紅茶を味わいながら、このティーカップ陶器一客にしたって其処いらの庶民がいくら精を出して働いたところで手に入れることができない高価な物なのだろうと思い溜息を吐いた。無駄に意匠を凝らした金色の壁紙やら、革張りのソファやら、マホガニー材のテーブルやら……いったい、どれだけの人間を踏台にし壊してきたら手に入れることができるのだろう? はてさて、神に選ばれし九賀野家の人間とやらが、使用人たちを含めたモノも含めて所有する価値がある人間なのか、この目でしかと確かめたいという思いが零の華奢な躰の中でふつふつと沸き上がってきた。
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