第5話

「そ……そう。ならば、あなたの要求を受け入れましょう。契約成立よ。それで、『命』はいつ、どんな方法で受け取ることができるのかしら?」

「七菊様と僕との間で契約した内容が履行されたと、僕が確認したときに『命の受け渡しの儀式』を行うことで『命』をお渡しいたします」

「『命の受け渡しの儀式』って、いったい何なのよ?」

「先刻、僕が七菊様にお見せしたでしょう?」

「ちょっ……もしかして、その拳銃で自殺することが『命の受け渡しの儀式』なの?」

「そのとおりです。この|

回転式拳銃リボルバーは軍人だった僕の祖父が使用していたものですが、この拳銃はオカルティックな拳銃で、装填するのは弾ではなくて『命』。とりあえあず『命弾めいだん』とでも呼びましょうか。人の『命』を奪うのではなく、人に『命』を与える拳銃なのです。とはいえ、曲りなりにも拳銃ですから、そう穏やかに『命』を分け与えてはくれません。先刻の僕の実演を見てお分かりだとは思いますが、その点はご覚悟ください。実際にやってみればわかりますよ。ビックリするけれど然程痛くないですからご安心を」

「そ……そう。わかったわ。わたくしには九賀野家を背負う人間としての使命がある。今、くだばるわけにはいかないのよ」

 七菊は、覚悟を決めるため、自分に言い聞かせた。

「それと、七菊様」

「何?」

「念のためお伝えしておきますけど、僕、男の子ですから。良かったら、触って確認してみますか?」

 そう言って、少女、もとい、少年はスカートの裾をたくし上げた。七菊は、手で顔を覆った。

「おやめなさいっ。はしたない。あなたが男児だとは俄かには信じがたいことですが、信じましょう。では、なぜ、そのような女児の恰好をしているのです?」

「一般的な男児の服より女児の服の方がしっくりくるからです。まあ、女装は趣味ということにしておいてください」

「わかりました。それと、あなたをお父様たちに会わせるときに名前がないと困ります。何と呼べばいいのかしら?」

「それもそうですね……それでは、僕のことは『れい』と呼んでください」

 こうして、七菊と零の摩訶不思議な物語は幕を上げた。

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