第4話

「ちょっと、理解に苦しむわね。お金や物以外で庶民が欲しいものっていったい何なのかしら?」

「僕は、少しばかり好奇心が強い人間のようでして、僕が知らない世界をこの目で見て、感じてみたいのです」

 少女は、琥珀色の瞳をキラキラと輝かせながら言った。

「回りくどいわね! はっきりおっしゃい!」

 七菊の怒声が人気のない路地に鳴り響いた。

「またしても、七菊様を怒らせてしまいました。要反省」

 少女は「てへ」と言いながら瞳の色と同じ琥珀色のボブヘアの髪を撫でた。

「では、遠慮なく言いますね。一つ目の『命』のお代として、僕を九賀野邸へ招待し、七菊様のお父様に紹介してください」

 想定外の少女の要求に七菊は目をパチクリさせた。そして、高笑いをした。

「随分謙虚なお嬢ちゃんかと思ったらとんでもない! 強欲なお嬢ちゃんね。要するに、九賀野財閥の名を利用して、あなた自身が名声や権力を手にしたいってことでしょう? まさか、九賀野を乗っ取ろうとか思ってるわけじゃないでしょうね? さすがに、それは無理よ。九賀野家に生まれし者は神様から選ばれし者なの。お嬢ちゃんみたいな庶民がどれだけ望んでも、どんな手を使おうと、あなたが九賀野の人間に成ることはできない。それは理解していただけるかしら?」

 謎の少女に対する恐怖心が徐々に収まり少し冷静さを取り戻した七菊は、元の高飛車な女へと戻りつつあった。

「もちろんです! 自分のような庶民が九賀野財閥をどうこうしようなんて微塵も思っておりません。ただ、僕は知りたいのです。神様から選ばれし高貴な御方がどれだけご立派な方なのか、どのような暮らしをしていらっしゃるのか。七菊様は理解に苦しむかと思いますが、こうした好奇心の塊で形成されているみたいな変人もこの世には存在するのです」

 七菊は逡巡した。この小娘は得体が知れない。いったい何のために拳銃を持ち歩いているのか? その拳銃を使って九賀野家の人間に危害を加えるつもりなのではなかろうか? それに、小娘のことを何者としてお父様に紹介すれば良いのか? どこぞのご令嬢でもあれば紹介できないこともないが、さて、どうしたものか。


「七菊様のご心配には及びません。天下の九賀野家の御方たちに危害を加える気など毛頭ありません。何なら、僕が、九賀野邸に足を踏み入れる前に、九賀野家が雇い入れている護衛に僕の持ち物やら、躰やら、念入りにチェックさせてください。僕、裸にされたって構いません。お父様には『六郷航太ろくごう こうた 様の愛玩動物』と仰っていただければ問題ないかと」


 七菊は少女に胸中を見透かされ、ゾクリとした。

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