第2話
「……あなた、もしかして、どこぞの質の悪い新聞記者か何か?」
と、七菊が訊くと、少女は、
「そんな風に僕が見えますか?」
と言いながら、白いレース襟が施された天鵞絨の黒のフレアワンピースの裾をつまんで、にっこりと微笑んだ。年の頃は、十歳前後といったところか。こんな幼い子どもが、新聞記者である筈がない、と七菊は思った。
「あなた、『命』を売るみたいなこと言ったわよね?」
「ええ、そう言いました」
「ならば、証拠を見せて頂戴! どこの馬の骨とも分からないイカれた子どもの言うことを易々と信じるほど、わたくしは馬鹿じゃなくてよ」
「それも、そうですね……そうしたら、実際、やって見せた方が話が早いでしょうか?」
「そうね。できるもんなら、やって見せなさいよっ!」
七菊の怒気を孕んだ声に少女は怯むことなくバッグの中から拳銃を取り出すや否や、銃口を口に咥えて、「バーン!」と言いながら勢い良く引き金を引いた。少女の頭は吹き飛び、破壊された彼女の脳が吹き飛んで、撒き散らかされた脳漿と血液が横殴りの雨のように飛び跳ねて、七菊の顔に付着した。震える指先で頬に手を当てると、七菊の指先が赤黒く染まった。この間、およそ三分。いったい何が起きたのか、七菊の思考は追い付くことができない。純白の雪道の上にできた血の海の中に横たわる少女は紛れもない人間であって、これが、悪夢でないのだとしたら、この場に居合わせ血飛沫を浴びた七菊は、この事の経緯をどう警察に説明したら信じて貰えるのだろうか。只でさえ、不治の病で余命宣告された身だというのに、残された貴重な時間を人殺しとして牢屋にぶち込まれて野垂れ死ぬなんて、まっぴら御免! 大雪の所為でまわりに目撃者がいないのが不幸中の幸い。七菊は、寒さと恐怖とで硬直した脚を洋傘の石突で突き刺して、逃げるように走り出した。
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