第100話 転移門とは

「転移門?」


 クロリスの言葉に、私は頷く。


「真言魔法の上級位階の魔法だよ。任意の場所と、現在地を結ぶ門を作るの」


 上級位階だから、かなり高度な魔法なんだよね。

 空間に穴を開けて、2つの場所を結ぶ。


 非常に難しい。

 するとクロリスは感心したように頷いて。

 それから……


「なるほど。すごい魔法だ。……しかし」


 そこでクロリスが疑問をぶつけてきた。

 そんな便利な魔法があるなら……


「何故国を解放したときに本国に連絡を出すのに使いを出して、自分でやらなかったのだ?」


 はは、それはね……


「転移門は開いた状態を維持するのに集中が要るから、自分で作って自分で潜るとその時点で門は消滅するんだ」


 で


「繋げられるのは、自分が良く知ってる場所だけなんだよ」


 そう。


 私の場合は「自室」と「謁見の間」くらいで。

 他は多分無理なんだよね。


 なので、繋いで報告だと陛下に無礼な報告になってしまうんだ。


 ……自分で潜ってしまうと、元の場所に戻ってくることができなくなってしまうから。


 だって、元の場所は「良く知らない場所」なわけだし。


 ……厳密に言えば、使い魔を併用したら行き帰りは可能なんだけどさ。

 転移元に使い魔を置いて、転移先に門を潜って行って。

 要件を果たしたら、使い魔の視点で場所をイメージして転移門を再度開く。


 でもこれ、途中で万一使い魔を殺されたら、戻ってこれなくなるからやるべきじゃないんだよ。


 だったらまあ、他人任せが良いかなぁ、と。


「……なるほど」


 納得はしてくれたようだ。


 で


「私は中級位階までしか使えんが……もう少し修行を積むべきかもしれんな」


 なんか、クロリスの向上心を刺激してしまったようで。

 いち真言魔法使いとして、少し嬉しかった。


 と。


 ……着いてしまった。


 教皇宮殿に。


 私たちはその、巨大な石の建造物を見上げる。




「近くで見るとますますタージ・マハルみたいだな」


 ケイジ兄さんが言ったものは何か分からなかったけど。

 多分兄さんの世界の建造物なんだろう。


「じゃあ、ここにチュー助を放って、お姉さんの居場所を探しますね」


 私の肩から、黒いネズミが教皇宮殿に向かってダッシュしていく。

 それを見送って


「……で、どうします?」


 2人を振り返った。




「何がだ?」


 クロリスの言葉に、こう応える。


「ユリ義姉さんに敗北を教える方法」


 できれば殴り倒して敗北を教える方式は避けたい。

 仮にもケイジ兄さんの義姉さんなわけだし。


 そのための相談なんだけど


 すると


「……ゲームでは無理だろうか?」


 ケイジ兄さんからアイディア。


 ゲームか……


 ゲームというと


「戦闘盤とか、白黒陣みたいな?」


 私が思わず例を挙げると、こんなことを


「そっちは俺が知らん」


 ……そりゃそうか。


 なので軽く説明。


 すると


「戦闘盤はこっちの世界のショウギで、白黒陣はリバーシか……」


 大体は、理解してくれた。


 で、兄さんが言うには、白黒陣はリバーシという兄さんの世界のゲームとほぼルールが同じみたいで。

 違うのは盤のマス目の数くらい。


 そこでいきなり


 兄さんが、緑色のマス目の入ったボードと、そこに付属する裏表白黒のコインみたいな駒を召喚したんだ。

 そしてこう訊いてきた。


「2人とも、白黒陣の腕は?」


 ええと……

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