第99話 魔王妃ユリ

 え……?

 あの人、兄さんのお姉さん……?


 ということは、ユリ義姉さんなの?


 すると。

 さっきまで聞き流していた魔王妃の名前が、連呼されていることにようやく気付いた。


「ユリ様!」


「ユリ様!」


 えっと……


 兄さんの反応からすると、外見はおそらくそっくりなんだと思う。

 そして……


 名前も、ユリ。


 ということは……


 この国の四天王は……兄さんのお姉さんの転生者……?




「私は、あの女性ひとはお姉さんだと思います」


 私は自分の見解を述べた。

 魔王という実例があるんだ。


 兄さんの世界から、こちらに人間が転生してくるという実例がある以上、その可能性を「無い」とは言えないよね。


 そして。

 クロリス曰く「魔族は自分で自分の名前を決める」そうなんだ。

 魔族は生後半年で成人するけど。

 それまでは「おい」とか「そこの」とか「お前」って。

 自分を産んだ母親に言われて育って。

 半年経ったら、自分で自分の名前を付けて親元を永遠に去る。


 これが魔族の在り方らしい。


 なので、あの女性ひとが転生者なら、名前が前世と同じでも全く変じゃない。

 というか、高確率でそうなるんじゃないかな。

 前世が嫌で嫌でたまらないなら別だけど。


 で……


「兄さん。王妃も普通、王の臣下です」


「そんなことは知っている」


 兄さんの返事は少しキツく感じた。

 ……しょうがないんだけど。


 だってさ


 前提条件でヘルブレイズ魔国の住人は全て魔王に絶対服従。

 反逆してはいけない。


 これがあるから


 ……兄さんの世界で、義姉さんに付きまとい、義姉さんが自分の恋人に絶対にならないという事実に逆上し、義姉さんを刺殺したような男が。

 こっちの世界で、前世で勝手に想い人に設定した義姉さんと再会して、絶対服従の臣下にしてる。


 そんなの……どんな目に遭わされているか分からないじゃない。


 すぐにでも解放してあげないと。


 前言撤回だよ。

 義姉さんに敗北を教えてあげないと。


 当然だけど、私が思わず妄想してしまった酷い状況には一切触れない。

 そんなの、ケイジ兄さんだって考えたくなくても考慮しているはずだし。


「じゃあ、元教皇宮殿に行きましょう。どうせお姉さんの居城はそこだと思いますし」


 私はテーブルの席を立った。




「タンザ」


 私が先行して、教皇宮殿……ここからでも見える、タマネギみたいな形の屋根が特徴的な石の宮殿……に向かって歩いていると。

 クロリスが声を掛けてきた。


「何?」


 振り返ってそう返すと、彼女は


「……どうやってケイジ様の姉様に接触するつもりなのだ?」


 そう訊いてきたので。

 私はこう言ったよ。


「転移門を使うのよ」


 って。


 ……結構、奥の手なんだけどね。

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