第96話 聖なる国・ビストピア教国

 私たちは、グラト帝国解放の連絡を、魔王の支配から脱した魔軍騎士で、変身の魔法が使用できる人にお願いした。

 この国では人間が底辺層で信用が出来ない。

 彼らに頼むしか無かったんだ。


「分かった。必ずこの書状を届ける」


 引き受ける際、その魔軍騎士の人は大きく頷き。

 別れ際に


「……解放してくれてありがとう。そして、すまなかった人間よ」


 あえて私のことを「人間」と呼んで。

 そう、謝ってくれた。


 ……彼らも救わないといけないよね。


 そして私たちは、次の国に入国した。


 聖なる国「ビストピア教国」に。




 ビストピア教国は、建国800年の国だった。

 ヘブンロード王国の次に古い国だったんだ。


 元々、女神イブリスが人間から神に転生された土地に建っていた国で。

 何度か革命が起きて国が倒れているけど。


 国としての在り方は大体一緒だったらしい。


 つまり、女神イブリスの生誕の地を守護する国。

 イブリス信仰の中心地で、信者は一生に1度は訪れたいと思っている国でもある。


 首都はカムイ。ここに建った国は必ずここを首都にした。

 ここでイブリスは神に転生したという、伝説の場所だ。


「イブリスという神はどうやって神に成ったんだ?」


 ケイジ兄さんがそんな質問をしてきた。

 私は答える。


「苦行です」


 そう、苦行。


 平たく言うと、苦しい修行をして、神に転生したらしい。


 その言葉に、ケイジ兄さんは納得いってないようで。


「……なんでそれで、他に神が出現していないんだ?」


 もっともな疑問を投げかけてきた。

 苦しい修行だったら、後に続く奴が出てきてもおかしくないだろ。

 兄さんはそう言いたいらしい。


 だから言ったよ。


「……逆に考えて下さい兄さん。後に誰も続けなかったくらい、苦しい修行だったんです」


 ……伝承によれば。


 イブリスは真言で自分の存在を神に高めることを願いながら


 ……自分の体の肉を自分で削ぎ落し、それを炎の中に投げ込んだ、と伝えられているんだ。


 他にも何かやったみたいなんだけど、そこは伝わってない。


 私がそう話すと


「……自分で自分に凌遅刑をしたのか。そりゃ、正気の沙汰じゃないな」


 私の話を聞き、ケイジ兄さんは納得の声。

 だよねぇ。


 ……ちなみに。

 何故苦行で神に転生できたのかというと。


 その「正気の沙汰じゃない」

 この1点なんだよね。


 自分で自分を寸刻みにする。

 これは通常の精神ではありえない、世界の法則に反逆する行為らしいんだ。


 なので、そんな行為をやめない存在を、世界は自分の外に出そうとするんだって。

 そして生命体が世界の外の存在になるということは、これすなわち、神に転生するってことなんだよ。


 そう兄さんにメカニズムを説明すると


「……インドの神話にも似た考え方があるよ。そういうの、どこでもある考え方なのかもしれないな」


 少し感心したようにそう言ってくれた。

 私はちょっと誇らしい気持ちになった。


 感心してもらえたから。


 しかし、インドって何なんだ?

 あとで教えてもらおうっと。



 そしてそうやって歩いて旅をして。

 幾日か経った後。


 私たちは首都であるカムイに辿り着いた。


 ……おそらく、ここに最後の魔王軍四天王がいる。


 そいつはどんな酷い国を作っているんだろうか?


 ……ここには、各国で「上」と判断された人間が集められていると聞いていたけど。

 私はあまり信じていなかった。


 上級の人間ばかりいるからって、良い国とは限らないから。

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