第94話 そして俺は異世界へ召喚された

 気が付いたら、何か石の部屋にいた。

 仕事でかつて頻繁に使っていた、コンクリート打ちっぱなし部屋とは違う。


 石を削ったり、石を積んだりして作った部屋だ。

 中世ヨーロッパがイメージされた。


 足元には赤い塗料の円形図形。

 なんだろう……魔法の香りを感じるな。


 そして目の前に杖を持った若い女の子。

 衣服は何だかダボダボのものを着ていて。

 魔法使いに見えた。


 ただ、年齢は高校生みたいに見える。

 銀髪の子だ。珍しい。

 地毛か?


 ……そしてわりと整った顔の子で。

 

 全体的な印象は、真面目。

 かつ努力家。


 花で例えれば、薔薇というよりマーガレット。


 もし日本でSNSに素顔を晒せば、ファンがそれなりに付きそうな気がした。


 ……そう。

 俺はなんとなく、ここが日本じゃないのではないかと思っていた。

 それどころか、地球であることすらを疑っていた。


 だから


「……ここはどこだ? お嬢さん、知ってるなら教えてくれ」


 そう訊いてみたんだ。

 言葉が通じない可能性あったけど、とりあえず。

 すると何故か通じて、目の前の彼女は答えてくれたよ。


「ここはヘブンロード王国の王都・テンジョーにある王城の地下施設です」


 聞いたことも無い名前の国。

 やっぱり。


「ヘブンロード王国?」


 だからその答えに訊き返すと、詳しい説明が。


「建国2000年に迫る、この世界で最も古い人間の王国です」


「そうか。それは凄いな」


 2000年か。

 頭の片隅で「日本は2000年以上だが」と意味のないマウントを考えてしまうが、打ち消す。

 文字通り意味が無いからな。


 そして彼女は続けてくれる。

 俺にとっては聞きたかった言葉を。


「あなたは私が呼び出した勇者です」


「……勇者?」


 何のために俺がここにいるのかを説明する言葉。

 それが今一番知りたいことだから。


 俺は勇者としてこの世界に呼ばれた。


 そして。

 聞くと、勇者とはこの世界を魔族から守るために戦う戦士らしい。


 なるほど。


 だから詳しい話を要求したら。


 驚かれた。


 一瞬、何故だと思ったけれども。


 まあ、冷静に考えると。

 普通はそんなの即受ける気にはならないかもしれない。

 確かに。


 召喚と言えば聞こえはいいが、やってることは他国による拉致で、強制労働。

 大昔に白人種がアフリカでやってたことと大差ない。


 普通は拒否するよな。

 ……俺は別に拒否はしないが。


 何故って、俺が求められているのなら、差し出したいんだ。

 俺は望んで手を汚し、悪を狩る極悪として、殺戮を続けてきた。

 その技能で、世界を守れるのなら喜んでお手伝いする。


 それが正直な気持ちだった。


 ……無論、こんなことは言えないが。

 俺のやったことは、他人に誇れることでは決して無いから。

 

 そして俺たちは名乗り合う。


 俺を召喚した女の子は、タンザナイト・トリストー。

 この国の宮廷魔術師らしい。


 ……宮廷魔術師か。

 ということは、国のトップ……多分、この場合は国王だよな。その人と

 その地位の人間と面識があるレベルの地位……のはず。


 そんな子が召喚を実行したということは、これは国家レベルの事業……いや、儀式かもしれない。

 だとすると、王との謁見はありそうだな。

 部下に任せて知らんぷりは無いはずだ。



 そして俺の方は名乗るとき、本当のことは言えないのでニートと答えておいた。

 嘘は良くないかもしれないが、勇者が殺し屋だなんて真実よりはマシだろう。


 そして俺を呼んだ理由も確認する。

 考えていたのは、異世界の情報が欲しいこと。

 あとは……


「……勇者召喚の儀式で呼ばれる異世界人は、呼ばれた状態から一切年齢トシを取らず、身体能力が元の世界の10倍になり、そして1つ超能力を得ます」


 ……なるほど。


 地球では神のようなスー〇ーマンも、生まれ故郷のクリ〇トン星ではただの人間って設定だしな。

 あり得る話だよ。

 別世界に行くと突如超人になるってのは。


 そうか……俺は正真正銘戦士として呼ばれたのか。

 上等だ。やってやる。


 そういうことは大得意だ。


 だから俺はこう答えたんだよ。


「なるほど。納得した。ならば世界を救いに行こうか」


 ……と。

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