第93話 殺し屋の末路
「霧崎さん。引退してください」
復讐を果たした後。
しばらくして
かつて俺をこの組織に勧誘しに来た金髪の少女……その子がまたやって来て。
俺にそんな言葉を掛けてきた。
俺は
「もう用済みってことか?」
俺はそう、自嘲混じり、そして少し責めるような言い方でそう返してしまった。
するとそのスカウトマン少女は首を左右に振り
「いえ、そうではありません」
あなたはもう、芯が抜けてしまった。
だから現場に立つと致命的なミスをしかねない状態だ。
やめてもらうしかない。
けれど、狙撃技術の教官としてはまだまだ有用。
そこはこれからもよろしくお願いします。
……だそうで。
俺は内心思うところがあったから
「分かった」
それを受け入れた。
火車は俺のその引退に伴い、整形手術と、新しい戸籍を用意してくれた。
退職金代わりらしい。
……まあ、これからも火車の狙撃教官としての仕事はあるから、退職では無いんだけどな。厳密には。
そして俺は、新しい顔と新しい戸籍で。
……故郷の街に戻った。
危ない、とは思ったけど。
両親が気になったんだ。
今頃。
俺は傭兵の道を選んで以降、両親と連絡を取るのを止めていたんだ。
自衛官と違い、ここから先は俺は両親に会う資格を喪失する。
そう思ったので、自分の中でのケジメをつけるために。
何故って、祖国防衛のためでもないのに好き好んで戦場に出向いて、敵兵を殺しに行く。
褒められたことじゃないよな。
どの面下げて親に会えというんだ。
……でも。
両親にとって、姉さんが殺されたから、子供はもう俺しかいないんだ。
なのに俺は両親の前から立ち去った。
それが一体、何を起こしたのか?
それを……物陰からそっと確認をした。
まず……両親ともに無職になっていた。
大切な娘を殺され、息子は音信不通。
それで精神を壊したらしい。
……俺が自衛官になる前には、仕事に打ち込んで気持ちを誤魔化していたけど。
それじゃ済まなかったのか。
これは、俺のせいだ。
それを自覚する。
子供が2人ともいなくなったので、子供のために貯めていたお金が丸々浮いて。
そこに2人分の退職金があったため、金銭的に困窮することは無いようだったが。
でも
俺のせいだ……
その思いに、圧し潰されそうな罪悪感があった。
それを思い知り
……俺はいい年齢なのに泣いてしまった。
この年齢で自分のことで泣くなんて。
みっともなかったが、抑えられなかった。
そしてそこから10年経った。
その間に、両親が早死にした。
まだ俺は40になってないのにだ。
生きる希望がないっていうのは、人間から生きる気力を奪うんだな。
思い知らされたよ。
……俺も長くないかもしれない。
定期的に、火車で狙撃の指導をしているが。
それぐらいしか俺には生き甲斐が無い。
身体を衰えさせるのは、強迫観念があり。
今でも現役の身体を維持していたけれど。
……俺の心は、どんどん空虚になっていく。
「霧崎さん、お爺さんみたいな顔になってますよ」
火車の職員の女性に、給料を貰いに行ったとき。
現金を差し出してもらいながら、そう言われたんだ。
最近の霧崎さんは覇気がない、って。
……そういうのは、嫌だな。
「そうか。気を付ける」
これ以上悪化しないように。
意識的に言葉を増やすようにした。
そうすると、喋り方が事務的な感じになるようになったが。
このまま俺は野垂れ死んでいくのか。
まぁ、それはしょうがないかもしれない。
俺は殺し屋だからな。
普通の死に方は、まあできまい。
家で部屋着のスウェット姿で。
何故か流行っている、くだらないドラマを見ながら、そう考えていた。
……コーヒーでも飲むか。
椅子に座って見ていたのだが、立ち上がり。
インスタントコーヒーを取りに行こうとした。
その瞬間。
目の前が突然真っ白になった。
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