第82話 傭兵になろう

 賢吾にぃは「百合を守れなくてすまない! 許してくれ!」って言って。

 俺に何度も謝ってきた。


 けれども


 俺は別に賢吾にぃに責任があるなんて思っていなかったよ。


 須藤の奴は狂い過ぎている。

 誰がこんな結末を予想できるって言うんだ?




 須藤の奴は、姉さんをめった刺しにして殺した後。

 自ら交番に自首をした。


 理由は「逃げきれないと思った」かららしい。

 これがどうも、後の裁判で「更生の可能性」の根拠に数えられたと、後で聞いた。


 前々から、俺は司法の基準ってやつには疑問があった。


 日本の司法では、時間をかけてアリバイ工作やトリックを用意して、完全犯罪を狙う奴より。

 一時の怒りを制御できず、いきなり女性に襲い掛かって刺殺する奴の方が罪が軽くなるそうだ。


 理由を聞いて頭では理解できても。

 俺の心は全く納得できなかった。


 その理由は「完全犯罪を狙う奴の方が社会に害があるから」だ。

 後者のバカは、すぐ捕まるから社会には害がないと思われているんだ。

 理屈は分かる。

 捕まえにくい完全犯罪を狙う奴を放置するより、すぐ捕まるバカの方が確かにマシだ。

 捕まえにくい奴は捕まるまでに殺人記録を伸ばしていく恐れがあるからな。


 だけど


 そんな理屈で納得できるか!

 こっちは人間なんだ!


 しかも


 これであの狂った男が心底反省して、俺の家に謝りに来るような真似をしたなら。

 多少はマシだったかもしれないが。


 アイツはそこも最悪だった。


 確証の無い話だけど。

 俺は真実と思ってる話がある。


 こんな話だ……


 アイツは警察の取り調べが終わった後、取り調べしていた刑事さんに


「ロードワークに行っていいですか? 日課なんで」


 そんなことを言ったらしい。

 ……ふざけてる。


 何がロードワークだ。

 お前にとって、姉さんの命を奪ったことは、日常の何でもない出来事なのか?


 絶対に殺してやる……。

 俺はそれを心に決めた。



 法律が姉さんを無視するなら。

 俺が法律を無視してやる。



 そこから色々と考えた。


 アイツが出所した後に、自宅に放火して焼き殺す。

 駅のホームで電車に突き飛ばす。

 車でき殺す。


 ……だけど。


 ダメだ。

 それは。


 そんなの、苦しみが足りない。


 あいつには、命乞いで泣きわめき、苦しみ抜いて、許しを乞いながら


 激痛の中で、絶望しながら命を落とす。


 そういう最期がお似合いだ。


 そうするには……そんなありきたりの犯罪行為じゃ不十分だ。

 アイツを拉致し、拷問を加え、嬲り殺せるだけの強さ……


 それが要る。


 そうなるにはどうすればいいのか?

 俺は考えた。


 高校生に成り立ての、未熟な頭でひとり、考えたんだ。


 そして……その結果


 傭兵になろう。


 俺の出した結論は、それだったんだ。


 現代日本で、俺の思い描いたことを出来るようになる強さは、傭兵業をしないと手に入らない。

 そういう結論を出したんだよ……

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