第81話 須藤加成

 その後。

 警察からも電話があって、警察署に呼び出されて。


 死体の安置所で無言の姉さんと対面した。


 ……今朝までは、俺と一緒に暮らしていた姉さんと。


 姉さんは顔以外がシーツで隠されていて。

 その理由はハッキリとは言われなかったけど。


 身体がめった刺しでグチャグチャになっているのかもしれない。

 そう思った。



 警察と、賢吾にぃの話を聞き。

 何が起きたのかを俺は知った。



「啓ちゃん、今日が入試だったよね」


「うん。そうね」


 ……姉さんと賢吾にぃは、その日の放課後。


 公園デートをしていたんだ。

 まあ、単に一緒に帰るだけなんだけど。


 それはいつものことで。


 2人で、俺のお祝いでどこか行こうか?

 そんな話をしていた。


 公園のベンチで、2人並んで座りながら。


 そのとき、公園には誰もいなかったらしい。


「遊園地一緒に行く? 春休みに」


「それは……どうかな。あの子そういうの喜ばないかも……」


 そんな話を2人でずっとしていた。

 そんな話、家でやれよ。


 聞いてて俺は思ったよ。


 この後に訪れた、悪魔の話を聞いた後だと。




「霧崎さん。そいつがキミの恋人なんですか?」


 それがそいつの第一声だったらしい。

 学生服の大きな人影。

 いつの間にか公園内に入り込んでいたんだ。


 そいつは。


 あとで聞いたことによると。


 そいつの名は「須藤加成すとうかなる


 資産家のひとり息子で、姉さんの通っている高校の剣道部のエース。

 恵まれた体格を持った、全国に出られるレベルの剣道家だ。

 学力も高く、姉さんと上位を争っていたらしい。


 そんな男が、姉さんを見初めた。


 そして……言い寄っていたらしい。

 姉さんにはすでに決まった相手がいるのに。


 僕の方がキミを幸せにできる、と自信満々に。


 そんな男を前にして


「そうです。何か文句があるんですか?」


 ハッキリ姉さんがそう答えると、須藤は


「……正気ですか? そんなのより、僕の方がどうみても男として上でしょう?」


 そう言ってきた。

 賢吾にぃは姉さんを庇うように立ち上がろうとしたが


 姉さんはそれを制し


「意味不明のことを言わないで下さい。私はこの人が良いんです。そんなの私の勝手でしょう」


 そう即座に返した。


「……何が意味不明ですか」


 すると須藤は


 つかつかつかと2人に歩み寄って来て。


 いきなり賢吾にぃの顔面を殴った。


 いきなりだ。


 姉さんは悲鳴をあげたらしい。

 全く予想できなかったから。


 狂ってる。


「……現実を見せて、目を覚まさせてあげますよ。この男ではキミを守れない。不適格です」


 賢吾にぃはいきなり殴られた。

 殴られながら、なんとか姉さんを守るためか抵抗らしいこともしたみたいだったけど。


 文化部の賢吾にぃと、剣道部のエースの須藤ではフィジカルが違い過ぎて。

 全く意味が無かったようだ。


 姉さんは警察を呼ぶために携帯を取り出し、番号を打ち込もうとした。


 だけど須藤は


「警察なんて相手にしてくれませんよ! この町の警察署長は僕のおじさんです!」


 ……今思うと、頭の悪すぎる発言。

 だから何なんだ?


 警察がお前の暴力事件を揉み消してくれるとでも?


 でも、姉さんは一瞬躊躇したみたいだった。

 姉さんは賢かったけど……まだ高校1年生だったから。


 そういう脅しに耐える胆力は……なかなか無いよ。


 けれども


 勇気を出して、姉さんは警察に通報した。


「もしもし! 私の彼氏が、酷い目に遭っています! 助けて下さい!」


 その瞬間、そいつが発火した。


「このクソ女がぁぁぁっ!!」


 ポケットから折り畳み式のナイフを取り出し。

 姉さんに襲い掛かって


 そいつは姉さんをめった刺しにした。

 ……賢吾にぃの目の前で。

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