5章:勇者の告白 召喚されるまでのその人生
第78話 俺の姉さんの話
「なぁ、霧崎」
中学2年のとき。
放課後の学校で。
部活に行く準備をしていたら。
クラスメイトの男子に声を掛けられた。
そいつは最近友人になった奴で。
気持ち悪いくらい、俺に調子を合わせてきた。
そしてサービスが良い。
給食の後片付けをしてくれたり。
掃除で俺に回ってきた仕事を肩代わりしてくれたり。
そこから内心、嫌な想像をしていたんだが。
友人をそういう目で見たくない俺は、気づかないふりをして付き合っていたんだ。
「何だ?
でも……
「お前の姉ちゃん、彼氏いるのか?」
今日がエックスデーだったらしい。
俺の名前は霧崎啓司。
剣道部に所属する男。
俺にはイッコ上の姉が1人いた。
名前は
俺は、学校の成績は悪くは無いが、飛びぬけて優秀というわけでもない、どこにでもいる平凡な人間だったんだが。
姉さんは違った。
姉さんは弟の目で見ても、清楚な美人で。
まるで童話のお姫様だった。
実際、文化祭でヒロイン役を任されたこともある。
俺の自慢だった。
姉さんは頭良かったし。
運動も出来て。
大好きだった。
俺はよく、勉強を見てもらったよ。
姉さんは自分の勉強もあるのに。
俺の苦手科目の勉強をよく見てくれた。
苦手科目を赤点から80点台になるまで指導してくれたのには本当に感謝したし。
俺の点数を見て、我が事のように喜んでくれたとき。
俺はこの
そう思ったんだ。
だからまあ、俺は姉さんの幸せをずっと願い続けていて。
たまに来る、この手のお願いには
「いるよ。小学校から付き合ってる相思相愛の彼氏」
こう、一刀両断に切り捨てることにしていた。
しょうがない。事実だし。
賢吾にぃと姉さんは幼馴染でずっと付き合ってるし、ずっと仲が良い。
まだ気が早いと言われるかもしれないけど、賢吾にぃなら俺の義理の兄でいいや。
そういう思いがある。
なので、気を持たせるようなことは言わない。
そうしてるんだ。
だけど
「……誰? 教えてくれん?」
……食い下がって来た。
たまにあるんだよな。
俺が勝手にジャッジして、自分の恋路を邪魔してるんじゃないかと疑うやつ。
いい加減にしろよと言いたいが……
俺は恋愛経験無いからな。
文句言ったり、こき下ろすのは酷いかもしれないので。
怒りを抑えつつ、こう返した。
「それは嫌だ」
……前にぐうの音も出ない「望みなし」を突きつけたら諦めるかと思って。
姉さんの彼氏「天野賢吾」の名を出したことあったんだけど。
そいつ賢吾にぃに「百合さんを賭けて勝負しろ」とか言いに行きやがって。
俺、ブチ切れて。
そいつと喧嘩になりそうになった。
姉さんに止められたから踏み止まったけど。
危うく暴力事件で前科がつくところだったよ。
で。
「何でだよ。それぐらい良いだろ」
そいつは俺の言葉に納得しなかった。
……そして。
なんだか態度が悪くなった。
さっきまで友好的だったのにな。
こういうの、がっかりするわ。
俺はそんな思いを抱えつつ、平静を保ちながら
こう返した。
「聞いてどうすんのさ」
すると
「確認に行く」
俺の言葉に、そいつの答え。
その答えをさらに詰める。
「確認してどうするの?」
「……それは」
詰まりやがった。
弱そうだったり、見た目かっこ良くないと感じたら、身を引けとか言いに行くのか?
……それをやりやがったら許さないが。
「とにかく、教えてくれよ!」
答えられないので、勢いで押し切ろうとしてくる。
しつこい。
俺は
「好きな相手が出来たときに、その周囲から良い関係を築こうと考えるやり方は良いと思うけどさ」
姉さんの恥になったら嫌だから、平常心を保ちつつ。
そいつのためになることを言うことで、感情を制御した。
「人生、どうにもならないことだってあると思うんだわ」
できるだけ穏やかに。
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