第77話 この世界の真実
「キリサキさん! すぐ耳を治します!」
ショウダを上半身と下半身で分断して、私は即座にキリサキさんに駆け寄った。
私は自分がやったことについては意識的に考えることを避けた。
まともに考えると、追い込まれてしまいそうだったから。
キリサキさんは片耳をショウダに千切られた。
人体欠損は上級位階の神聖魔法による回復でしか治せない。
クロリスはその位階に行っていない以上、私がやるしかないわけで。
私は神聖語の詠唱をし、魔法を発動。
キリサキさんの耳に触れ、その耳を綺麗に再生させて治した。
……これでいいか。
私はホッと胸を撫で下ろした。
「……ありがとう」
キリサキさんからの礼。
私は頷き
「勇者のサポートをするのが私の使命ですし」
笑顔でそう返して。
次はクロリスの鼓膜を治そうと向き直ったら
「大丈夫でしたかケイジ様」
クロリスは自己回復をして、こちらに歩いてくる。
「指示通りに動いてくれて助かった」
そんなクロリスに、キリサキさん。
「いえいえ……」
私にはうっすらとしか聞こえていなかったけど。
あのときのショウダの言葉。
一体、あのとき何をアイツは言ったんだろうか?
クロリスは全部聞いてるはずだよね……?
そう思い、私はすでに死亡しているであろうショウダに視線を投げようとして……
「オイ……殺し屋……」
ギョッとした。
ショウダがまだ……生きていたから。
口から血を吐きながら、ぜえぜえと荒い息をつき。
ショウダは、彼は、こちらに憎々し気な目を向けてきた。
いや……
ショウダは、キリサキさんを睨んでいたんだ。
ごぼごぼと血を吐きつつ。
呪詛を吐く。
「何を澄まして英雄面してんだよ……諸悪の根源がぁ……」
震える手で、指差す。
そして続ける。
「お前の予想通りだよ……魔王のヤツは、お前が殺したアイツだよ……! 四天王の僕が言うから間違いねえよ……!」
その内容は
「お前が殺したから、この世界に今の魔王が出現したんだ……! だから全部、この状況はお前のせいなんだよぉ……!」
とても衝撃的なもので
「現実逃避するんじゃねえぞ……全部、お前が悪いんだからな……!」
そこまで言って、身じろぎしたときにショウダの左手からポロリと竜の短剣が零れた。
そのまま、死に向かいながら口を動かす殺人鬼……ショウダ
「このイカれた……災厄を呼ぶ殺人機械……」
だけど
その言葉は最後まで続かず。
ドン、という音で遮られた。
銃声だ。
私たちは驚き、キリサキさんの右手にデザートイーグルが握られているのを見てしまった。
その銃口からは煙が立ち上り……
ショウダは、死んでいた。
額に銃弾を受け、脳を吹き飛ばされて。
今度こそ、完全に死んでいたんだ。
撃ったのはキリサキさん。
その顔は……追い詰められた顔だった。
じゃあ……ということは……
「キリサキさん……」
思わず、呟くように私は言った。
私たちが召喚した勇者様に。
勇者様は……これまで見たこともないような。
弱弱しい顔で。
呼び出した武器を消し。
そして
その場に膝をつき
床に手をついて
こう言ったんだ。
「許してくれ」
その声は震えていた。
震える声で、続いた言葉。
「この世界を地獄に変えた原因は俺なんだ」
え……?
その一瞬、私は言葉を理解するチカラを一瞬失った。
だけど
「ケイジ様……どういうことか説明を願えますか?」
クロリスがいちはやく立ち直り、訊いた。
この状況の真相についての説明を
キリサキさんはそのクロリスの言葉を受けて数瞬の間を置き。
そして
ゆっくりと話してくれた。
キリサキさんが、向こうの世界で歩んできた、地獄のような人生の話を。
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