第75話 私の使命
閃光刃。
当てることさえできれば、ショウダを倒せる。
そこにショウダが竜の肉体を持っていることは関係ない。
確実に真っ二つにできる。
……当てられれば。
実際には難しい。
ショウダは動きが速いし……
それに、普通に考えて真言詠唱の完了を待ってもらえるわけがないから。
でも……
私の詠唱を聞き、ショウダは呟くように言った。
「……また閃光刃? ワンパターンだけど、無視はできないかな」
そう。
当たれば防げないので。
その場合確実に負けるのだから、無視はできない。
だから、私に意識が向く。
あのデザートイーグルの銃口を私に向けさせられれば……
私の狙いはそれ。
私を囮に、キリサキさんに逆転の目を。
だけど
「……あのさ、キミたちの勇者様だけど、本当は元傭兵じゃないよ? 知ってた?」
ショウダから飛んできたのは銃弾ではなく、言葉で。
それは……
「本当はね……元殺し屋さ」
笑いを含んだ声での、暴露。
え……?
「タンザ! あいつの言葉は聞くな! お前は詠唱に集中しろ!」
クロリスの強い言葉。
叱咤だ。
彼女も私の詠唱だけが鍵だと気づいている。
でも……動揺してしまう。
だからあの謁見のとき。
陛下に経歴を御下問されたときにキリサキさんは返答を拒否したのか。
とか。
実は元傭兵という話に、私の目にはキリサキさんのロングコートは異様に映った。
兵士の装備にはどうしても見えない。
とか。
私がなんとなくキリサキさんに抱いていた違和感が、全てしっくり来てしまう。
納得の回答に思えた。
元殺し屋、っていう話は。
動揺で、心が挫けそうになる。
殺し屋なんて……お金を貰って、人を殺しに行く外道中の外道。
絶対に許せない存在。死刑で当然の極悪人。
キリサキさんがそれだなんて……
信じたくない。
詠唱が止まりそうになったけど。
……私は、そこでさらに高らかに唱えた。
今は考えるな。
詠唱を途切れさせるな。
それはショウダの思うつぼ。
……私はタンザナイト・トリストー。
ヘブンロード王国の宮廷魔術師。
私は勇者の手助けをするために、国を代表して派遣された。
だから……
こんなことで、心を乱して使命を投げ出してはいけない!
私の詠唱は続き、終盤に差し掛かり。
完了を目指し進んでいく。
「聞けよ! 人の話をさ!」
ショウダは自分の言葉で詠唱が止まらないことに苛立っているようで。
そんなことを言って。
とうとう、私に向けてデザートイーグルの銃口を向けようと……
したときだ。
キリサキさんが言ったんだ。
「クロリス! 暗闇の魔法を使え!」
キリサキさんのクロリスへの指示。
それは、意味のあることだった。
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