第74話 絶体絶命

 怖い! 助けて!


 意味もなく、恐怖が沸き上がってくる。

 叫ばずにはいられない!


 膝をついて頭を抱え、私は叫んでいた。


 だけど。


 そっと私の体に触れる手があって。


 その途端、荒れ狂う恐怖の波が収まった。


「……落ち着いたか?」


 ……クロリスだった。

 彼女の暗黒魔法の「平常心」の魔法で。

 恐慌状態を回復してもらえたみたい。


 ……私は竜の「恐怖の咆哮」をまともに喰らってしまったんだ。


「あ、ありがとう」


 お礼を言って立ち上がる。

 キリサキさんは?


 私は立ち上がりながらその姿を探して……


 絶句した。


 キリサキさんは片耳を押さえていた。

 そこから血を流しながら。


「……ケイジ様も竜の咆哮をまともに浴びた」


 ええ!? と彼女を見る。


 クロリスは焦りの表情を浮かべながらこう続ける。


「しかし、ケイジ様は恐怖に負けなかった。けれども……動きが一瞬止まり」


 その隙に、ショウダに片耳を引きちぎられてしまった。


 戦慄する。

 そこで

 ショウダの狙いに想像がついてしまったから。


 ショウダの姿を探した。


 ショウダは……


 クチャクチャクチャと、何かを咀嚼し。

 飲み込んでいた。


 そして飲み込み終えて、言ったんだ。


「……これで。僕もキミと一緒の技能持ちだ」


 血まみれの口で……にやあ、と笑いながら。


 ……今キリサキさんの、歴戦の傭兵として培った戦士の技術を、経験を、全て奪われた。

 そして相手は竜のスペックを持っている。


 ……今度こそ、ショウダはキリサキさんを上回った……!


 どうしよう……絶体絶命だ。



 なんとかしないと。

 どうすればいいの?


 必死で頭を回す。

 ヘブンロード王国の宮廷魔術師として、ここで何か出さないと……


「さて、楽しんでみようかぁ!」


 そんな私を他所に、ショウダは凄まじい笑顔で……


 竜の短剣を左手に持ち替え、右手の中にデザートイーグルを出現させたんだ。


 私は真っ青になった。


 ……技能って……超能力まで奪えるの!?




「デザートイーグルってかっこいいねえ! ロマンだよ! キミが愛用するのが良く分かる!」


 ドン、ドンと、発砲しまくる。

 弾切れとか考えてない。


 まあ、当たり前だよね。


 弾が切れたら、新しい弾丸を弾倉内に召喚し直せばいいんだから。


 キリサキさんはショウダの射撃を、駆け回って避けていた。

 一発でも貰うと、勝負が決まる。


 ショウダには銃器は無効だけど、キリサキさんにはそうじゃないから。

 キリサキさんのコートは防弾仕様になってるけど、頭には何もつけてないから、当たれば当然一発アウト。


 私はどうすれば良いんだ……?


 必死で考え続けた。


 考え続けて……


 いっこだけ、思いついたんだ。


 これぐらいしか思いつかない。


 私は魔術師の杖を構えた。

 構えつつ、唱え始めたんだ。


 それは……閃光刃の真言。


 私は閃光刃の真言詠唱を開始した。

 かなりはっきりした声で。

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