第73話 武術を舐めるなよ
急降下したショウダは、獣のように竜の短剣片手にキリサキさんに襲い掛かり。
灼熱のブレスを吐き掛けながら、短剣の一撃を叩きこんでいく。
その動きは恐ろしく速かった。
私の目には素人の動きに見えたんだけど。
お城で見た熟練の兵士の動きからすると、無駄が多いのが分かったから。
でも……
攻撃を繰り返しながらショウダは言った。
「僕は武道なんて高校の授業でやった柔道くらいしか知らないし、裸絞めと寝技くらいしか出来ないよ! だけど!」
大振りの短剣の一撃を横薙ぎに繰り出しながら
「僕は竜の10倍筋力! 対してキミは、鍛えているとはいえ人間の10倍!」
人と竜で、その10倍の筋力。
その開きが絶望的なのは私にもわかる。
加えて……
キリサキさんは、ショウダのブレスを回避し、ショウダのフィジカル頼みの猛攻を回避しながら、勇者の剣で斬りかかっていくんですけど。
ショウダは一見回避が不能と思われる姿勢でも、重力を無視して避けてしまう。
……アイツ、飛行能力を併用しているんだ!
そこに気づいたとき、私の血の気がどんどん引いていくのが分かった。
「単純なフィジカルの差と、超能力、固有能力の差で、鍛えぬいた達人を蹂躙する! ものすごい娯楽だよコレは!」
狂ったように笑いながら、短剣で斬りつけていく。
……援護しないと!
援護しないとキリサキさんが殺されてしまう!
だけど……
ちらり、と私はクロリスを見た。
彼女も焦っているようだった。
手を出せなくて。
……誤射の恐れ。
それがあるから、援護が出来ない。
見守るしか、出来ない。
どうしよう……?
私はギュッと杖を握り、クロリスとともに戦いの行方を見守っていた。
「そらぁ!」
そして。
ショウダが狂った笑顔で短剣を力強く突き出したとき。
分からないことが起きた。
ショウダがくるり、と縦に一回転し。
床に叩きつけられたのだ。
……え?
良く分からなかった。
今、何が起きたの?
分からなくて、思考が止まる。
だけどそこで
「今、ケイジ様はショウダの腕を片手で取って、片手でアイツを投げたのだ」
クロリスの解説。
そこでようやく理解する。
……完璧に決まると、投げ技って見てても理解できないものなの?
投げられたショウダの方も、一瞬混乱していたようで。
追撃でキリサキさんの勇者の剣による突き刺しを、すんでのところで回避し
「……僕を投げたのか?」
飛行能力を駆使して、立ち上がり。
焦りのためか、引きつった顔でショウダはそう訊き
キリサキさんは
「お前のような、出鱈目な暴漢を無力化するために投げ技がある。……武術を舐めるなよ」
キリサキさんはニコリともせず。
こう続けた。
「筋力が竜の10倍だろうが、体重はそのままだ。……投げることに何の支障もない」
勝ち誇るな。
言外にそう言うキリサキさん。
……すごい。
私たちは、すごい勇者を救国の英雄として引き当てた。
彼なら……きっと、いや絶対私たちを救ってくれる……!
感激に打ち震える。
これはキリサキさんが勇者の剣を手に入れたときと同じだったかもしれない。
けれど
「耳を塞げ!!」
クロリスの叫び声。
え……?
私はいきなりすぎて
対応が遅れた。
そして次の瞬間
ウオオオオオオオオオ!!
ショウダの雄叫びがつんざくように耳に響き。
同時に……
私は恐怖で叫び出していた。
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