第72話 気が変わったよ
閃光刃。
真言魔法の3つある奥義の1つだ。
魔力の光を生み出し、その光が当たったものを問答無用で切断する。
多分、神器以外の全てのものが切断できる。
この魔力の光は「切断する」という概念であり、その物体がどれぐらい硬いかというのは関係ない。
光なのもたまたまで、鏡を使って反射するという手も使えない。
光のように見えるだけ。そう見えるだけなんだよ。
射程は術者次第。
私は10メートルくらいまで伸ばした経験があるけど、全力でやれば多分もっといく。
歴史上の記録では、戦争で使用して軍団ひとつを一振りで壊滅させた魔術師も居たらしい。
非常に強力な、文字通り最強の攻撃魔法なんだけど。
究極位階、つまり奥義だけあって真言の詠唱時間がすごく長い。
なので
ショウダが今、詠唱している真言魔法。
それは中級位階の攻撃魔法「水刃斬」で。
私の詠唱よりずっと早く詠唱完了する。
そして
「そぉれ!」
詠唱終了したショウダが、自身の魔導器「竜の短剣」を振るい、水の刃を生み出して私を襲った。
鉄をも切断する水の刃だ。
……魔導器って、真言魔法の発動体にもなるんだね。
これには流石に私は「閃光刃」の真言詠唱を中断して、その場から身を投げ出し、転がりながら避けた。
……普通に切断するなら、使うのは水刃斬だけで良い。
閃光刃の発動阻止に、同じ究極位階の、同レベルの魔法を使う必要は無いんだ。
倒れた状態から、私は素早く立ち上がろうとするけど。
その前に、ショウダの口が大きく開き
……次に何が起きるのかが脳裏に過り、私の心臓が縮み上がった。
ファイアブレス!
私の想像は正しくて。
まだ立ち上がり切れていない私に、灼熱の火炎の吐息が襲ってきた。
避けられない……!
被弾を覚悟した私。
だけどその前に。
クロリスが目の前に滑り込んできて。
彼女が吹雪のブレスを吐き出して、ショウダのファイアブレスを相殺し、防いだんだ。
ぶつかり合う吹雪のブレスと灼熱のブレス。
その温度差、蒸発した水分の余波で。
周辺の湿度が大幅に上がった気がした。
「……ナイスサポート。美しきは魔族と人間の友情。……何でそんなことになってんの? 前から思ってたけど」
ファイアブレスを吐き終えたショウダが、私たち2人をそう評する。
……いつからそうなった、か……
「知らん!」
クロリスの言葉。
多分この知らん、ってのいうのは友人関係かどうか分からない。
そんな意味が含まれている気がする。
だけど……
「クロリスありがとう」
私は彼女のことを友人だと思っていた。
……彼女の方が私をどう思ってるか分からないけどね。
色々モヤモヤしながら仲間入りを許した彼女だけど。
彼女を仲間にしたことで、魔族のことを教えてもらえたし。
彼女に人間社会を教えることが出来た。
だから大切な仲間だし……友人であって欲しい。
……そのとき、拍手の音がした。
それはショウダのもので
なんだか満足げに微笑みながら、彼はこう言った。
「いいねぇ。そういうの、エモいよ。君らの関係、僕らの世界にも似たのがあるけどさぁ」
ショウダは笑顔で語った。
元々、人間を食べるのは他人の幸せを破壊し自分に取り込むことで偉大な存在になった感覚……全能感を味わうためにやっていた。
けれど今は単なるグルメになってきて……
昔ほどの感動を感じられない。
だけど
キミらを殺せば、あのときと同じ感覚を味わえそうな気がする。
せいぜい、互いを庇い合いながら、絶望して死んでいってくれ。
ホント……そのままのキミらでいて。
仲の良い子を仲が良いまま殺すのが良いんだから。
そんなことをショウダは言い。
「……そのためには……勇者が邪魔だなぁ」
キリサキさんに視線を向け。
急降下する。
こう言いながら
「気が変わったよ。……先に勇者に死んでもらおう!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます