第69話 すぐ向かうぞ

「なるほど」


 両腕を組みながら。

 黙って私の報告を聞き、キリサキさんは頷いて。


「1才児の監禁場所は分かってるのか?」


「はい!」


 私は返答する。


 赤ちゃんの場所だけじゃない。

 私はあの宮殿の中を使い魔のチュー助で丸裸にしていた。


 まず、あの宮殿にはショウダ以外の人間は3種類しか居ない。


 1つは料理人。

 多分、ショウダの命令で赤ちゃんを料理させられているんだろう。

 全員、顔色がおかしかった。

 ブツブツ言ってる人も居た。


 ……ひょっとしたら飼育場のように。

 精神に異常が起きたら、魔族によって治療を受けているんだろうか?


 そしてもう1つは、赤ちゃん。

 ……この子たちは……食材だ。


 調理場近くの部屋にまとめて閉じ込められていて。

 世話は魔軍騎士と思える魔族たちがやっていた。

 彼らは淡々と世話をしていたけど……


 ひょっとしたら、情が移らないように意識してのことかもしれない。


 最後の3つ目は、地下牢の囚人。

 何故か彼ら、彼女らは……

 両手が無かったり、足が無かったり。


 ようは五体満足の人が、1人も居なかった。


 この人たち、何で囚われているんだろうか……?


 そこまでの私の報告を聞いて、キリサキさんは頷きながら

 私にこう訊く


「……荘田は?」


「それは玉座の間に」


 あの男は玉座の間にいて。

 御簾に囲まれた空間で。

 玉座……帝の椅子に座っていた。


 その衣服は、ローブに似た金の糸をふんだんに使った豪奢な衣装……帝の装束で。

 帝を気取っていたんだ。


 その様子を報告したら


「分かった。今すぐ向かうぞ」


 キリサキさんはすぐさま腰を上げた。

 え……?


 驚いてしまう。


 キリサキさん、もっと詰めようって言わなかったんだよね。


 いやね……私としては、キリサキさんが来る前に、できることは全部した自負はある。

 だけど……


 キリサキさんはその上で、もう一度調べようとか。

 そういうことを言いそうな気がしたのに。


 全部やったと自負が出来るレベルで調査率90%行けば上出来。

 それすらないならもっと低い。


 完全な仕事を目指すのなら、別の視点でもう少し調べてみよう。

 それが未知の相手なら猶更。

 そういう言葉が出てきそう。


 ……いや、それ以前に


 暗くなってから行こうって言わないの?

 潜入するなら闇に紛れるのはそれは基本だよね?


 なので


「慎重に行かないんですか?」


 私も立ち上がり、そう訊いたんだ。だけど


「時間を置くと子供が殺されるんだろ?」


 私の言葉をそう切って捨て。

 そのまま立ち止まらず外に出ていく。


 そしてこう言ったんだ。


「これ以上、この世界の人間を苦しめるわけにはいかない」


 ……え?

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