第55話 食用人間

「食肉用の人間を作るため……?」


 男たちの口から出てきた言葉。

 人間の言葉と思えなかった。


 人間が、食用の人間を作るため、その父親と母親になる男と女を狩り集めている。

 選定基準は、若くて外見の良い男と女。

 その理由。

 食べる側の気分として、不細工な子供は食欲が湧かないから。


 男たちは、青い顔でビクビクしながらそう白状した。


 私には彼らの言葉が、人間の思考から出たものと思えなかった。


 だから……


 魔族って人間を食べるの?

 伝承にはそういうの無かったと思うけど!?


 そんなことを思いながら、私は思わずクロリスを見た。

 そんな私の視線に気づいたクロリスは


 即座に私の心の内を気づいたらしく


「……そういう視線は心外だ。我々は確かに人間を対等の存在とは見ていないが、食糧にしたりはせん」


 我々のお前たちの基本認識は、創造神が我々のために用意した召使。

 お前たちは召使を殺して食うのか!?


 ……かなり不愉快だったみたいで。

 そう、言い放たれ。

 睨みつけられた。


 そこで私は自分の考えていたことを理解して


「……ごめんなさい」


 魔族は私たちの敵だけど。

 さすがにこれは無かったのかもしれない。


 そう、思ってしまった。


 いくら敵でも、著しく名誉を貶めていいとは私は思えない。


 私が謝ると、クロリスは少し目を閉じて


 数秒後


「……分かればいい」


 そう、返した。

 今の数秒で、沸き上がった怒りを制御したのか。


 なんだかんだ言って、やっぱり。

 魔族は上位種族を自称するだけのものはあるのかもしれない。


 それを少し、考えた。




「オイ、我々をどこに連れていくつもりだったんだ!?」


 少し荒い口調で、クロリスが男たちに詰め寄る。

 私に疑われてよっぽど腹が立ったのか。

 申し訳ない。


 そんなクロリスの言葉を受けて男たち


「ええと、人間市場に……」


 人間市場。

 どうも、そこにこの国で隠れている人間を捕獲して引っ張っていき。


 若くて見た目が良ければ繁殖用父母に。

 そうでなければ死ぬまで使い潰す奴隷。


 そして非常に運が良ければ、彼らのような人間狩りの一員になれる。


 どうもそういうシステムらしい。


 ……そんな施設、許しちゃいけない。

 すぐにでも潰さないと。


 だから


「キリサキさん、クロリス」


 早速そこに踏み込みましょう。

 そんな人間を牛や豚みたいに扱う仕組み、機能不全にしないと!

 今すぐ!


 そう思い、呼びかけたら


「……ああ。無論だ」


 キリサキさんはそう言ってくれて。


「私も手を貸す。流石に酷過ぎる仕組みだ」


 クロリスも協力を即座に申し出てくれた。

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