4章:牧場の国 グラト帝国

第53話 無人の街で

 グラト帝国。

 建国500年を超えるそれなりに古い国。

 たった1人のミカドの下に、臣民が仕えている構図の国。

 支配階級である貴族がおらず、臣民は皆平等ということになっている。


 特徴的なのが、政府の役人は国家試験に合格した人間だけが就くことができること。

 それは官吏登用試験「科挙」と呼ばれていて。


 その試験の内容は、メインは過去にこの国で生まれた思想家で最も有名な3人の著作から出題される役人の心得。

 そして歴史の問題。作詩。計算問題。そんな内容。


 そんな内容の試験が3日くらい「食事なし、水だけで不眠不休」で行われるんだ。

 だからメチャクチャ厳しかったらしい。


 この試験の合格者は高い知能と、不屈の精神力、そしてそれを支える体力を持っていることが期待されるわけだね。

 昔は年齢制限が無くて、合格したときに60才近いことが珍しくなかったそうだけど。

 それでは役人として活躍できないだろということで、魔族に侵攻されて滅亡させられる前には「30才まで」という年齢制限がついていたみたい。


 グラト帝国の建物は、土で作られた建物なのが特徴で。

 その建て方は、まず木の板で枠を作って、その中に専用の土を詰める。

 土が固まると、枠を外して壁にして。

 そうやって家を形成していく。


 それで最終的にどう仕上げるのかは、私はちょっと理解できてないんだけど……


 今、建ち並んでいる家を見る限り、屋根も土の塊で葺いているように見える。

 だから多分、純度100%の土の家なんじゃないかな。


 住人がいれば、その辺を訊くこともできたと思うんだけど……


「人が居ないですね」


「そうだな」


 私とキリサキさん。

 そしてクロリスの佇んでいる道。


 通行人が1人も居ない。


 ……どうなってるの?


「確か、現在のこの国は2年後の生存が保証できないんだったな」


 そんな話でしたね。

 前の国でそんな話を聞いた。


 ……この国に入る前、少し塞ぎ込んでる雰囲気があったから。

 こうして現状に感想を述べてくれるのは少し嬉しかった。


 状況は異様で、全く嬉しくはないんだけど。


「クロリスは何か事情は知らないの?」


 魔族である彼女に訊ねると


「……この国はの国だ。と聞いている」


の国?」


 クロリスは頷き。


「私が最初派遣されていたヒウマニは、2つ目のの国にする予定で攻めていたんだ」




 彼女が言うにはこういう話で。

 ビストピア教国はじょうの国。

 すでに通り過ぎたアスラ武闘国はちゅうの国。

 そしてこのグラト帝国はの国。


 ……なんでも、ヘルブレイズ魔国はじょうの国に一軍の国民が集まるように仕向けているらしい。

 その選抜はちゅうの国で行われ。

 上位の人間と判定されたらじょうの国に移籍を許可され。

 下位だと判定されたらの国に送られる。


 ……なるほど。


 彼女は、古巣のことを嬉々として話すつもりは無いからか、あまり自分からはこういう話はしてくれないんだよね。

 だから今まで知らなかったよ。

 この辺、創造神シャダムの言う「美しさ」に抵触する問題なんだろうね。


 しかし一軍……

 多分それは、能力が高いってことだけじゃないと思うんだ。

 それだけで他が最低の人間……賢くても傲慢だったり、頑健でも下劣だったり。

 そういう人間は、あのアカイも嫌いそうだし。

 そうなると、処刑か国外追放してると思うから。


 本当に「良い人間」だけ選抜して集めているんじゃないかと予想できる。


 でも、何で……?


 理由が分からず、悩んでいたら


「オイ、何だお前たちは?」


「不法入国か?」


 いきなり、そんな声が響いて。

 ヒトがいた?

 という驚きと、やっと事情を知ってそうな他人に出会えたと思う安心を持ちながら振り向き


 めっさ驚いた。


 そこには……


 赤いモヒカン、トゲ付き肩パッド。

 顔面に入れ墨。バトルアックス。


 そんな見るからに悪党にしか見えない男たちが数人、居た。


 ……数匹の怪物を引き連れて。

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