第49話 この偽勇者!

 ライファーを魔法で殴り倒し。

 残ったヘルハウンドを、真言魔法中級位階「氷結嵐」で1体ずつ倒していく。


 ヘルハウンドは素早いので、範囲攻撃でやらないとムズカシイ。


 だけど。

 それは主人であるライファーを討ち果たした後だから、魔法の発動は容易で。

 結果、そう難しいことではなかった。


 キャイイイイイン!


 吹雪の嵐を浴びて、犬の悲鳴で凍結し、死んでいくヘルハウンドたち。

 氷の嵐がおさまる度、その巨体を横倒しにして。

 その死骸を闘技場の砂の上に晒した。


 ……よし。

 私の受け持ちは全部片付けた。


 ここで普通なら、他に加勢に行くのが基本だとは思う。

 けれども


「自分の受け持った相手に勝利できても、決して他に加勢しに行こうとするな」


 これを厳命されていた。

 理由は、相手に完膚なきまでに勝つため。


 加勢が許されるのは、相手が他に加勢したとき。

 それ以外は許されない。


 クロリスはかなり優勢で戦っている。

 大鎌は使い辛い武器なのにすごいと思う。


 長い柄を使って足を払ったり、顎を狙ったり。


 武器としての応用力があまりないんだけど。

 それでもクロリスは大鎌を武器として使用している。


 1度「何で大鎌なの?」って聞いたんだけど


 すると


「魔法武器としての大鎌は武器としての切断力が高いもの多い」


 だって。

 刈り取る、という意味合いが魔法で強化されているらしい。

 なるほど。そういう強みがあるのか。


 まあ、クロリスは大丈夫そうだね。

 放っておいても負けそうには見えないから、決断も何も要らない。

 当初の作戦通り、信じて任せるだけで良いよ。


 ……ならばキリサキさん。

 あの人はどうだろう?




「雷よ!」


 アカイが雷の槍を両手で高く掲げた。

 

 キリサキさんはアカイとの距離を空けた。

 同時に先ほどまでキリサキさんの居た場所に雷が落ちる。


 ……空からの落雷だ。


 この魔導器、多分屋内では使えないんだろうな。


 その意味で、決闘場所がこのコロシアムなのは実に都合がいいんだろうね。


「やりますねぇ。初見でいきなりこの魔導器の攻撃を躱したのは驚きました」


「事前に全ての魔導器の名前を伝えられ、知っていたからな」


 2人の会話。


 それはとても穏やかに思える。


 こっちからは良くその内容は聞こえないけど。


 キリサキさんは勇者の剣を両手で構えている。

 多分、今のアカイに通じる武器がこれしか無いんだろう。


「……魔王の魔導器は波動の剣か?」


 そしてキリサキさんは何かを言いながら、右手を剣から離して、その右手の中に緑色のボール大のものを呼び出した。


 ――確か、手榴弾というやつだ。


 ギョッとした。

 確か、半径10メートル圏内の生物に致命傷を与える手投げ武器、だよね?


 ここ、ほぼ全部効果範囲に入ってしまうと思うんだけど……?


 キリサキさん! それはダメです!


 そう言いそうになったけど。


 ……いや。キリサキさんがそれを理解できないはずがない。


 信じよう。


 だから私は黙った。

 だけどアカイは


「そんなものを投げたら、観客席を巻き込んでこの闘技場は全滅ですよ!」


 警告のつもりなのか、声を張り上げてそう言い放つ。

 ……その声には焦りがあった。

 アカイは手榴弾の威力を知っているのか。

 さすが異世界人。


「え!? そんな!」


「マジか!? 助けて!」


「ひでえ! 死にたくない!」


 それに反応し、ざわつく観客席。

 尊敬するアカイ様の言葉だからアッサリ信じたんだろう。


 観客から悲鳴。


「この偽勇者ぁ!」


 誰かのそんな叫び。


 そして

 それを受けてキリサキさんは


「嘘を吐くな赤井! これは非殺傷の催涙手榴弾だ! 俺は勇者だぞ!」


 アカイの大声に対抗するように、さらに大声を張り上げたんだ。

 ……毒ガスマスクまで消滅させて


 明らかな大嘘を。

 とても堂々と。


 えええ~?

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