第46話 3対3
そこに入場したとき。
私たちは洗礼を受けた。
これまで会ったこともない人たちからの非難の嵐という洗礼を。
「来たぞ! 勇者気取りの偽善者たちが!」
「帰れ! 俺たちは素晴らしい国で生きてるんだ!」
「クズが!」
「山にでも引っ込んでろ!」
……言いたい放題。
実際に被害を受けていない人にとっては、この国の在り方は喜びなのかもしれない。
だって、気に入らない奴を国が処罰してくれるんだもの。
そして、頑張って国の望む結果を出せば、キチンと褒めてくれるんだもの。
だけど……
人間、そんなに完璧じゃない。
それに、人間の目はよく曇る。
ただ1回の失敗も、例外も認めない国はおかしい。
クロリスは全く何も感じていないみたい。
彼女にとっては、猪どもが何かブーブー吠えている。
そういう感覚なんだと思う。
魔族だし。
そしてキリサキさんも何も感じていないみたいに見えた。
この人は何なんだろう?
何も感じていないはずはないと思うのに。
全く、何も動じているようには見えなかった。
どうして?
嫌じゃないの?
悲しくならないの?
アスラ武闘国コロシアム。
それは、砂で形成された戦闘場で。
広さ直径10メートル以上はある円形の闘技場。
そしてその戦闘場を囲むように、何百人も収容できそうな客席が。
その席は満席で。
皆が、私たちの対戦相手を応援している。
「アカイ様! 頑張ってください! 応援しています!」
「ルシエル様! その剣技と魔法の冴えを期待しています!」
「ライファー様! 悪魔たちをヘルハウンドの餌にしてやって下さい!」
ルシエルは茶色短髪の男性魔族。
顔つきは精悍で、真面目そうで実直そうな印象。
背丈は2メートル近い巨漢でもあった。
そしてライファーはブロンド長髪の男性魔族。
顔つきは中性的で。瞳の色は青。
背はそんなに高く無かった。
で。
ライファーは獣を2頭連れていた。
体長3メートルを超える大きさの黒い狼。
目が赤く、舌も真っ赤だ。
魔狼という異名を持つ怪物・ヘルハウンドだ。
強靭な体躯を持ち、火炎のブレスを吐く強敵。
約束は3対3のバトルのはずだったはず。
なのに魔物を2頭連れてきているのはおかしい。
そう言おうと思ったけど
魔王軍のやることは、結果のちゃぶ台返し以外全部見逃せ。
そうキリサキさんに言われていたことを思い出し、グッと黙った。
「ライファーは魔獣を使役するのが得意な魔軍騎士です。彼の全力には2頭の存在は欠かせません」
アカイはそう穏やかに、理不尽を正当化する言葉を述べる。
私たちはそれには全く抗議しなかった。
代わりに私たちは割り当てを話す。
「アカイはキリサキさん、ルシエルはクロリスがお願い」
「承知した」
「分かった」
返事を受ける。私はそれに応え
「……ライファーは私が倒すから」
言って私は真言を唱え始める。
そして見ている前で。
対戦相手の3人は、頭上に円を描き。
次々と魔鎧を着装していく。
そしてルシエルが片刃の長剣を。
ライファーが黒い魔術師の杖を。
それぞれ振るい、身構える。
――さあ、戦闘開始だね。
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