第47話 アウェーの中で

「さあ、アカイ様! 偽善者たちを叩き殺してください!」


 司会のそんな大声とともに

 決闘開始を告げる大太鼓が鳴った。


 同時に私は魔法を解き放つ。


 真言魔法中級位階「飛翔」の魔法を。

 かなりのスピードで、空を飛ぶことを可能にする魔法だ。

 それでふわり、と宙に浮かび上がる私。


 そのままライファーに立ち向かう。


 すると


「飛ぶなんて卑怯だ!」


「許せない!」


「ライファー様しっかり!」


 すかさず飛んでくる私に対する非難と魔族への声援。

 ……これは地味にきつい。


 ああ、ここには私たちの味方なんて居ないんだ、って。


 なので思わず、仲間の戦いぶりを見てしまった。


 クロリスは魔鎧を着装し、ルシエルと切り結んでいた。

 そこに萎縮は見えない。

 何にも気にしてない。


 普通に大鎌を操り、長剣を操るルシエルと戦っている。

 斬撃にブレス攻撃を織り交ぜ、攻撃が単調になりがちな大鎌という武器の弱さを補っている感じ。



 そしてキリサキさんは


 深紅の上級魔鎧を着装したアカイ相手に、勇者の剣で戦っていた。

 双方、当たると致命打になる必殺武器を装備してる。


 だけど……


 アカイが翳した左手から、液体が発射された。

 透明な液体だ。


 キリサキさんはそれを避けるんだけど、正直液体を避けるのは厳しいのか

 浴びてしまっている。


 ただ、浴びる場所は選んでいる感じ。

 薬品に耐性があるロングコートで浴びるようにし。

 決して生身の部分や……生命線であるガスマスクには浴びないように。


 キリサキさんは「集団戦を選んだ以上、巻き添えを恐れるだろうから、毒ガス攻撃はしてこない」と読んでたけど。

 絶対にしない保証はどこにもないから。

 あのスタイルは絶対に崩せないよね。


 ……仲間の奮闘をみて、私にも1人で戦う勇気が湧いた。

 よし!


 私は空を飛びながら、眼下の相手・魔軍騎士ライファーに対峙した。

 ライファーは空を飛ぼうとしてこない。


 ということは、彼は真言魔法は中級位階に到達していないらしい。


 私の勝機はそこにあるはず。


「タロウザ! ジロウザ! ファイアブレスだ!」


 ライファーはその掛け声と同時に、私に向かって掲げた杖から数十本の炎の矢を生み出し、発射する。


 真言魔法初級位階の「火炎の矢」

 初歩の魔法。


 だけど。


 初歩だから恐ろしくないとか。

 そんなことはないんだな。


 食らえば十分ダメージを負う。


 私はそれを避けながら、眼下で私に向かって走り寄ってくるヘルハウンド2頭を見つめる。

 彼らは基本は犬。


 身体が大きく、火炎を吐き出す能力を持っただけの犬なんだ。


 だったらどうするか……


「やれー! 焼き殺せー!」


「思いあがった小娘を丸焼きにしてやれー!」


 観客からのヤジ。

 それをなるべく意識に入れないようにしながら。


 私は宙を飛び、その延長線上にライファーが来るように位置取りをする。


 ヘルハウンドたちの口腔内に火炎が沸き起こり

 吐き出される瞬間。


 その寸前で


「ファイアブレス待て!」


 事態に気づいたライファーからのそんな静止の声。

 ヘルハウンドたちは自分たちには火炎が通じないので、誤射を恐れる発想がない。

 なのでこれは効くのではと思ったんだけど。


 ……対策はしてて、キチンと調教はしてるのね。

 でもま


 それは、それで。

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