第45話 コロシアムにいらっしゃい

 総督府に使い魔を放ったままなので。

 アカイの様子は引き続き見張ってはいる。


 アカイは巡回魔軍騎士の襲撃事件について報告を受け


 だいぶ考え込んでた。

 そしてキリサキさんの書置きを見て


 怒り狂うのかなと思っていたんだけど。

 ……そうじゃなくてさ。


 なんていうんだろうか……?


 目が泳ぐというか。

 落ち着きがないというか……


 なんか、おかしい。


 潜入を開始して、観察を続けてて思ったんだけど

 アカイは敵ではあるけど、リーダーの器だ。

 そこは間違いないと思う。


 なのに、なんというか……


 動揺。

 そう、動揺だ!


 キリサキさん、挑発したって言ってたけど。


 ……あれ、本当なんだろうか?


 私はキリサキさんが勇者の使命を果たそうとしてくれているのは信用しているけど

 

 ……私の方にも動揺があった。


 あの置手紙に書いていた内容が挑発でないとするなら。

 一体何を書いたんだろうか?


 そしてどうして私たちにその内容を教えてくれないんだろうか?


 ……分かんない。




 そしてとうとう、来るべき日が来た。

 潜伏場所の河原で、私は報告する。


「コロシアムで決闘による決着を求められてます」


 そんなお触れが今日出た。

 ……らしい。


 私はそんなお触れを、公道での立て札ではなく、命令を発したアカイ本人の口からそれを知った。

 そのときのアカイはこんなことを言っていた。


「このままではお前たちの中に敗北者が出てしまいます。そうなれば魔王様が……」


 クロリスは言っていた。

 魔王軍は敗北すると死ななければいけないって。


 アカイはそういうの疑問あるんだね。

 心配するのがそこだっていうのであれば。


 ……だったら何で、この人魔王に従ってるの?


 謎だ……。


「コロシアム?」


 横で聞いていたクロリスがそう反応。

 

 私は頷き


「元々は、武芸者が腕比べをするために作られた施設なんです。今は魔獣に罪人を襲わせて公開処刑するための施設になってますけど」


 アスラ武闘国のコロシアムは名物だったから、外国人の私でも知っている。


 キリサキさんは、そんな私の言葉を黙って聞いていたんだけど。


「……観客も入れるわけか。コロシアムで決闘をするというのであれば」


 そんなことを。

 私は頷いた。

 ……正直、すごく言い辛かったけど。


「入れます。……アカイを支持するアスラ武闘国の国民を」


 アカイが提案するコロシアム決闘による私たちとの決着。

 それは


 観客が全員敵。


 完全アウェーの状況での3対3の戦い。

 私、そんな状況で戦うなんてこと、したことない。


 私の言葉を聞き、キリサキさんは少し顔を顰めた。

 そして


「それは……おそらく相当辛いぞ」


 キリサキさんは言ってくれた。


 自分の劣勢を喜ばれ、相手の劣勢は応援される。

 私たちの敗北を、周りの人間全てに望まれる。

 それがどれぐらい辛いのか。


 ……正直、すごく怖かったけど。

 でもこの方法しか、私たちには手がないんだよね。

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