第38話 提案
アカイの情報をこのお父さんから取る。
それはどうするんだろうか?
「まず、聞いておきたいんだが」
キリサキさんは指差した。
お父さんの着ている服を。
「その服は、布はどこから出ている?」
……へ?
「これは……工場です」
お父さんが自分の服に手を当てて、そう訝し気な顔で答えると
「その素材は?」
キリサキさんの間髪入れない詰める問い。
すると
「……知りません」
言い辛そうにお父さん。
協力できてないことに、自分が情けないのか。
そんなお父さんを全く気にせず
「それは、その服を製造している工場で働いたことがないという意味か?」
次々と
そして質問と回答。
その結果、お父さんは運良く服の工場で働いていたらしいことは分かったんだけど。
「素材はどこから来ているか分かりません」
らしい。
素材の布だけ運び込まれて、それで皆で服を作っているそうな。
「……そうか」
腕を組んで考えて。
もっと人が欲しいが……
ここで判断するしかないのか。
何かブツブツ言っている。
なので
「キリサキさん、教えてくれませんか? 仮説で良いです」
私はそう言った。
私たちも会話に加わらせて欲しいから。
「なるほど……」
キリサキさんの仮説を聞き、私はそう言ってしまう。
キリサキさんは、このお父さんが働いている工場で作られている製品群の素材は、アカイの超能力の産物なんじゃないのかと見たんだ。
たった1例しか見ないで立てた予想で、検証すらしてないから仮説としか言えないけど。
「赤井房雄は化学の研究者だった男で、水道局で使用した毒物も自分で合成したという話だった」
だけど、と前置きして
「しかし知識があるからと言って、こっちの世界で直ちに化学の知識を存分に活かせるわけがない。合成装置も要るし、その装置を動かす電気も要る。……だからまず無理だ」
なのに、化学繊維に見える布を使用した服が存在する。
ということは……
「赤井の超能力は、自分の化学知識を思う存分活用した成果物を呼び出す能力なんじゃないのか?」
それがキリサキさんの結論だった。
でないと化学繊維を作れる理由が思いつかないんだ、だって。
それは……ちょっと恐ろしい。
それだとキリサキさんの能力より幅が広いと思うんだけど。
だってそれは……
新しく何かを生み出せるってことでしょ?
過去の記憶からモノを引っ張り出してるキリサキさんと違って。
その辺、キリサキさんも分かってるのか。
「もしそうなら……毒ガスは無理か? いや、決めつけるのは良くない……」
また1人で考え込むキリサキさん。
私としては……
「あの」
スッと手を挙げて。
こう言ったんだ。
「偵察してきましょうか?」
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