第37話 罪人
「仰る通りでしたね」
お父さんは苦渋を舐めた表情で、キリサキさんの呟きに応えた。
「私も最初はとても悔しかったですが、段々ヘルブレイズ魔国の支配は、厳しくも正しい優秀な支配なんじゃないか? と思えるようになってきたんです」
真面目に生きている限り、総督府に粛清はされない。
粛清されるのは「体の調子が悪い」だの「社会が悪い」などの言い訳ばかりしている寄生虫だけ。
これはこれで良いんじゃないか、と。
「そして彼らは、優秀な国民はもっと素晴らしい楽園のような国に移住させてやるという餌をぶら下げましたからね」
猶更、皆頑張りました。
そう、お父さん。
優秀なら天国に行けて、落第者と認定されたら地獄行き。
なるほど……そういう構図なんだね。
この国は。
するとキリサキさんは淡々と分からないことを言った。
「なるほど……そんな構造なら猶更社会不適合者の告発が増えるだろうな」
……なんで?
どうしてそうなるのか分かんなくて
「どうしてそうなるんですか?」
そう訊く。
クロリスも理解できないみたいで
明らかにキリサキさんの答えを待っていた。
するとキリサキさんは教えてくれた。
「これが分からないのはタンザは立派に人生を謳歌しているってことだよ。……上に行けないことを認められない燻ってる奴らは、足の引っ張り合いをするしか承認欲求を満たせないんだ」
え……?
思わず絶句すると
突然、お父さんが涙を流し始めた。
「……申し訳ありませんでした。勇者様」
そして項垂れた。
……なんとなくそれが何を意味するのか、私は理解してしまった。
「私も数人売りました。陰でこっそり仕事をサボっている奴だとか。自分勝手に仕事をして他人の邪魔をしている奴とか」
彼らを告発したら、いくらかちょっとした肉が買える程度の賞金が出て、それで肉を買って家族で食べました。
正直、良いことをしたと思って誇らしさすらありました。
……でも妻が告発されて、やっと私は自分が何をしたのか理解したんです。
そこまで言って、お父さんは声を殺して泣き始めた。
……酷い。
こんなのだったら、逆らう人間の首を躊躇なくに斬っていく分かりやすい恐怖政治の方が幾分かマシかもしれない。
やり方がえげつな過ぎる。
誰だって正義の味方になりたいからね。
そして誇らしい気持ちになりたいもんね。
すごいと思われたいもんね。
……そこを利用して、互いに監視させて告発合戦で不満を逸らすなんて。
酷過ぎる。
ひょっとしたら誰にも感謝されないかもしれないけど。
特に今の社会で泳ぎ切れてる人間には。
この社会、潰さないと。
私はそう、決意を強くした。
そしてそんな私を気に掛けず、キリサキさんは
「懺悔はいい。罪悪感があるならアカイの情報を教えろ。特に特殊な能力に繋がりそうな情報を」
お父さんを一切慰めようとしないで。
冷徹に情報を取るためにそう言ったんだ。
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