第35話 逃げるんだよッ

「上級魔鎧召喚って大変なの?」


 私の言葉にクロリスは頷き、驚きと興奮で少し震えた声で語り出した。


「魔鎧自身に認められないと魔鎧は戦士の召喚に応じない」


 彼女は続けた。


 私の魔鎧は上級では無いが、それでも認められるのに10年掛かった。

 それをあの男は人間の身で成し遂げた。しかも上級の魔鎧とだ……

 上級魔鎧との契約を結んでいる魔族は、全体でも20人に届かない。

 この意味が理解できるか? タンザよ?


 クロリスのそんな言葉。

 当然理解はできるよ。


 魔族であっても難しい事柄を、あの男性は成し遂げた。

 ものすごいことだよ。


 それに


 いつあの男性がこっちの世界に呼ばれたのか分からないけど、おそらく10年も掛かってないよね。

 上級魔鎧との契約に。

 確かに、あのヒトは人間としてのレベルは相当、いやものすごく高いヒトなんだと思う。


 こうして魔族のクロリスを驚愕させ、あと周囲の魔軍騎士を自然に統率しているんだから……!


 クロリスはアカイを睨み据えながら厳しい表情で両手を上げ、頭上に円を描いた。

 後追いだが、彼女の魔法武具召喚だ。


 同時に人間変身を解き、青白い肌で2本の角と3つの目を持つ姿に変貌する。

 それを見つけたアカイは


「……おや。魔族が勇者の仲間に居るようですね?」


 そう、意外そうに言うんだけど。

 クロリスは堂々と


「私はケイジ様に恩を受けた! だから私はケイジ様にお仕えする!」


 そう応え、その手の大鎌を振りかざし、構える。

 そして


「我が名はクロリス! 勇者キリサキケイジ様にお仕えする魔族の騎士!」


 名乗った。

 するとアカイは


「……なるほど。良いでしょう」


 元の世界で言うなれば、会社を整理解雇された後。

 別会社で採用されて古巣に対する対抗勢力としてやってくるようなものでしょうか?


 そんなもの、裏切り者とは言えませんよね。

 何故って、先に関係を切ったのはこちらなんですし。


 ……何故だか、彼はクロリスを裏切り者として責めなかった。

 そこが逆に私には恐ろしかったよ。


 ……だって、とても理路整然としてて、理性的だってことだしね。

 あと……クロリスの発言で、何が起きたのかについても一瞬で推理したってこともあるし。


 ……確かに、オトヤマより遥かに怖い相手かもしれない。


「ですが、魔王軍を甘く見ないように。あなたには言うまでもないですか?」


「無論だ!」


 その言葉と同時に、アカイの姿が闇に包まれた。

 おそらく、クロリスが真言をこっそり唱えていたんだと思う。


 暗闇の魔法の真言を……


 魔族は第3の目で魂を視認できるので、闇の不都合は私たちほどじゃない。

 なのでこれはクロリスが一方的に相手を視認できる状態なんだ。


「ゆくぞッ!」


 そして地を蹴り、アカイに突っ込もうとしたとき。


「クロリス行くなッ!」


 ……キリサキさんの一喝が飛んだんですよ。

 有無を言わせぬ声が。


 その言葉で、クロリスが停止する。

 急停止し、足元の砂が飛び散った。


 キリサキさんは続けて


「2人とも逃げるぞ!」


 ……声の方を見ると。

 キリサキさんは処刑家族の拘束を完全に解いて。


 子供と女性を肩に担いで走り出していました。

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