第33話 怠け者の戯言ですね
公開処刑……?
その言葉を聞いた瞬間
「行きましょう!」
私は2人に呼びかけ、走り出した。
許可は取ってなかったけど。
一緒に来てくれると信じながら
「この女は、病気を言い訳に仕事を怠け続け、配偶者に寄生していた。再三の警告も無視して怠け続けた社会のダニだ」
公開処刑は広場で行われようとしていた。
周囲の人々と違い、金髪の女は白い布で作られたこの国の伝統的死刑囚の装束を身に纏い、泣きながら跪かされ、斬首の姿勢を取らされていた。
女は何も言わない。
ただ泣いていた。
「病気を言い訳に、ほとんど働かずほぼ寝てばかり。このような存在を生かしておくと社会が腐る。皆の者、よく見ておくように」
そう前口上を述べる処刑人……それは魔族で。
3つの目、2本の角、そして青白い肌。
パリッとした黒服を身に着け、その手に黒い金属で出来た片刃の長剣を握ってる。
両手持ちの長剣だ。
……ファルシオン?
その魔族の後ろには細目の初老の男性が立っていて。
能面のような表情でそれを見守っている。
着ている服装は、一般住民と同じ服装で。
髪型は整っていて、高いレベルの教育を受けた上層の人間なのが一目で分かった。
……正直、こんな残虐なことをしそうな顔じゃなかった。
処刑されようとしている女の方に、本当に何か問題があるんじゃないかと思うほど。
でも……
そのときだ
「待ってくださいアカイ様!」
処刑現場に、男性と男の子が滑り込んできて、土下座したんだ。
そしてこう言った。
「妻は本当に体が弱いんです! 息子を生んだ後、体調を崩してしまい、起きて働くと熱を出すようになってしまったんです!」
「お母さんを殺さないで下さい!」
そう、額を地面に擦り付けて助命嘆願。
だけど
「……この女は配偶者と我が子を洗脳しているようですね」
細目の初老男性……アカイがそれを受け、発した言葉がそれだった。
女の夫と息子が、絶望的な表情で顔を上げる。
「アカイ様……ですから妻は……」
男性の言葉。
だけどアカイは
「やれ病気だ、やれ体調不良だ……そういうのはね、怠け者の戯言です。働くことは喜びで、そうすることが人間の証明。他人の同情を買うために嘘を磨く暇があるなら、社会奉仕のために自分が一体何ができるのかを考えなさい。熱がなんですか……」
「ですから妻は!」
男性は、アカイの言葉を遮るように叫んだ。
そしてそれは
「ルシエル、ライファー」
「ハッ。アカイ様」
呼びかけに応じ、2名の魔法武具を着装済みの魔軍騎士がアカイに跪く。
「この一家の処刑内容を変更します。ヘルハウンドを1頭連れてきなさい。決闘処刑です……できますか?」
男性のそういう妻への態度。
それはアカイの怒りを買って。
それは斬首刑を、より酷い刑罰にランクアップさせる結果になったみたい。
決闘処刑。
内容の説明がなくても想像はできるよ。
「なるほど。決闘による処刑ですね。……確か調教済みのヘルハウンドが1頭、総督府の檻に居たはずです。連れてきます。オイ、ルシエル!」
2名の魔軍騎士が手分けして、決闘処刑とかいう公開処刑の準備を進めていこうとする。
1名が総督府とかいう場所に戻っていき。
残り1名が、鎧を着装していない魔族を呼び集め、処刑家族を拘束し直そうとする。
これはいけない……!
なんとかしなきゃ。
そして私が頭を回そうとしたとき
「タンザ、眠りの声」
私の背後からキリサキさんの声が来て。
次の瞬間、キリサキさんが黒い豹か虎のように飛び出して行った。
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