第32話 首都ベルーゼ

 首都ベルーゼ。

 アスラ武闘国の首都。


 あたりはアスラ式木造建築が建ち並んでいる。

 2階建てがほぼ存在しない、平屋建ての建物群。


 アスラ武闘国は、湿気が多い国なので。

 湿気対策で木造建築のその建物は、床が地面より高い位置にあるんだ。


 なのでアスラ武闘国では、建物に入るときに靴を脱ぐ文化があるのよね。

 他にない文化。


 この辺、先日の温泉宿に入るときも一緒で。

 正直、キリサキさんも驚くんじゃないのかとワクワクしてたんだけど。


 無反応。

 ……珍しくないの?


 そう思っていたら

 キリサキさん、周囲を見回しながら


「……なんというか。数が揃うと長屋町って感じだな」


 そんな一言が。


 ナガヤマチ?

 そこは分からなかったけど


 あまりにもこの特異的建築に対し変な反応なので


「ひょっとしてこういうの、珍しくないんですか? 靴を脱ぐ文化」


 そう訊いたら


「思い付きじゃなく、合理的理由でそうなってるんだろう? 床が高いから、外のゴミが入りにくい。ならば靴を脱いだ方が外の汚れがより家の中に入らないから自然とそうなる」


 そんなもの、俺の世界でも起きる状況で、そういうのは普通にあるんだ。

 別に珍しくない。



 そんな返答。


 ……ですか。


 ちょっとガッカリした。


 でもまあ、言われてみればそうなんだよね。

 必要に迫られてそうなったんだから


 私たちしか思いつけない唯一のものって考えるのは間違ってるのかもしれない。


「ガラスが無いんだな」


 クロリスの言葉に


「そうだねぇ。木造で、ガラスの代わりに紙で窓を塞ぐ文化」


 歩きながらそう返答。


「鍵はどうしてる?」


 これはキリサキさん。

 さっきの無反応に不満があった私はそれが嬉しくて


「戸のつっかえ棒と、犯罪が発覚したときに厳罰にすることで抑えてる感じです」


 そう、嬉々として答えると


「なるほど……」


 納得顔をされた。

 ちょっと嬉しかった。


 ……でも


 前から思っていたけど。

 住民の服装が、ちょっと変なんだ。


 温泉宿の段階で「おや?」と思ってたんだけど。


 アスラ武闘国の伝統的民族衣装じゃなくて。


 簡素なズボンとトップスを着てるんだよね。

 で、その服が……


 なんとなく、キリサキさんのロングコートの下に着てる服に似てた。


 ……まあ、流石にここまで来たら分かるよ。


 アカイの仕業だろうね。

 多分、こっちの方が優れているって思って、させたんだと思う。


 実際、元々の伝統衣装よりは着やすそうなんだけど……


「これ、アカイの仕業なんでしょうか? 住人の服、アスラの伝統衣装じゃないです」


 そう、キリサキさんに訊くと


「だと思う。俺の世界の服にそっくりだ。中国の人民服に似てる気がする。実物は見たことはないんだが……」


 チュウゴクって何?

 そう思ったけど、まあそこは多分どうでもいい。


「アカイが強制的にさせたんでしょうか?」


 そう、私が予想をすると


「どうだろう? 人は楽な方に流れるものだ。こっちの方が楽だと判断する人間が多ければ、自然とそうなる」


 そんな意見が。

 えっ、と思った。


 でも、言われてみれば。


 我々だって、魔族から教わった箸の使い方、反感あっただろうにずっと使い続けているし。

 素手で食事をするより、こっちの方が良いって思ったからだよね?


「文化なんてそんなもんだ。楽な方が残っていく」


 ……なんか、寂しいな。

 私はそんなことを思っていたら


「公開処刑が始まるぞー!!」


 そんな大声があたりに響き渡ったんだ。

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