第24話 そして次の国へ

「おい! お前今ストウと言ったか!? 魔王に下の名前はあるのか!?」


 そう、目を吊り上がらせながら。

 キリサキさんはオトヤマの死体の胸倉を片手で掴んで揺さぶっていました。

 

「キリサキさん! 落ち着いて下さい! 彼女はもう死んでます!」


 オトヤマの目にはもう、命の輝きはありません。

 己の欲を満たすために、国を手に入れたいと妄言を吐き、多数の人間を死に追いやった悪鬼。

 その死に様としてはあまりにも相応しく、かつ悲惨過ぎる表情を浮かべている死に顔。


 その死の瞬間まで、全く何の反省もしていなかった。

 ただ、己の運命を嘆いていた。

 それが一目で分かりました。

 これは救いようのない死刑囚の死に顔です。


 これは当然の結果かもしれません。

 ですけど、これは違います。


 私がそう声を掛けると、キリサキさんは落ち着いてくれました。

 こう言いながら


「すまない。取り乱した」


 って。


 呼吸も少し荒くなっています。


「……どうしたんですか?」


 気になったので訊くと


「魔王の名前が聞き流せない名前だったんだ」


 そう言われて


「それは何故ですか?」


 そう返してみると


「他人には少し言い辛いんだ」


 ……そんな答えが返ってきました。

 なので


「分かりました」


 それ以上、訊きませんでした。




 四天王を討ち取ったので。

 クロリスの勧めで。オトヤマの首級しるしを取りました。

 オトヤマの首をキリサキさんが勇者の剣で切断。

 それを私が神聖魔法の「腐敗停止」の魔法で永続化し。

 完了です。


 ……身体の方は、その場にキリサキさんがシャベルを召喚し、穴を掘って埋めました。

 負担にならないように、身体能力を倍化しながらやってもらって……


 身体の方は人として弔い、頭の方は利用させて貰います。


 どういう風に?

 それは……


「オトヤマに恩を受けた魔軍騎士は居ないと思います」


 クロリスの話です。

 彼女は言いました。


 オトヤマに恩を受けた魔軍騎士の話は聞いたことが無い、と。

 なので


「オトヤマが討ち取られたと聞いて、仇討ちに出る魔軍騎士は居ないはずです」


 そのため、何が起きるのか?


「オトヤマが討ち取られたと知れば、元の主の下……魔王様のところに帰るために、ヘルブレイズ魔国へ戻ろうとすると思います。我々の魔王様から受けた使命はオトヤマの手助け、でしたので」


 ……という話です。

 手助けする対象が居なくなったら帰る。

 それが魔族の反応なんですね。



 魔族には。

 大して良くしてもらって無いなら、主君が討ち取られてもそれは


 フリーになった


 くらいの意味しか無いみたいなんです。

 なのでこの場合、首級を見たら帰っちゃうんですね。


 聞いたときに「なるほど!」と思いました。

 まあ、それを完全に信じたのは、砦に首級を持って行って、それを目撃した砦を占拠していた魔軍騎士数人が


 戦意を無くして「愚かな」と言い残して去っていくのを目撃してからですが。

 彼らには「単身敵を深追いし、返り討ちに遭って果てるような愚かな主君」に忠義を果たす文化は無いんだ……


 あと。

 光の斧はいつの間にか消えていました。


 オトヤマは出したり消したりしてましたけど。

 魔導器は、必要なときだけ呼び出して、不要になったら戻す。

 そういうことができるんですかね?


 だとすると、元々魔王の持ち物らしいですし。

 光の斧は、今は魔王のところにあるんでしょうか?




「よくやってくださった!」


 大統領にオトヤマの首級を提出すると。

 私たちは讃えられました。


 さすがは勇者様だ、と。


「残存勢力の処理はよろしく頼む」


「任せて下さい!」


 キリサキさんは大統領と固く握手を交わしました。




 戦勝会を提案されましたけど、さすがにそれは辞退。

 今はそんな暇は無いですし。


 まだ魔王軍はいるんです。

 まずは魔王軍に支配された国を解放しないと。


「次はアスラ武闘国です」


 国境近くまで馬車で送ってもらいながら。

 その馬車の中で

 私がそう、口にすると。


「どんな国なんだ?」


 そんな言葉がキリサキさんの方から。

 私はキリサキさんに


「元々は、武族という貴族階級が支配する、ピラミッド型の王国でしたけど……」


 と、返しました。


 アスラ武闘国。

 元々は武族のリーダー武王を頂点とし、武族、賢者、市民、農奴という社会体制の国。

 今は、どうなってるんでしょうか?


 ……正直、怖いです。

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