第21話 この国を貰う

「何って、この国を貰うんだよ」


 ニコニコしながらオトヤマは言った。

 それはご褒美を期待して頑張る子供のノリだった。


「……貰ってどうするの?」


「え? 女王様になるの。決まってんじゃん」


 そう言ってオトヤマはうっとりとした顔で


「死刑判決受けたのは本当に悔しかったけど、こっちの世界に召喚されて、魔王軍四天王にして貰えたからトントンだよねぇ」


 本当に嬉しそうに言う。


 やれ、ニホンジンの女で最高に出世できた。

 まさか女王様になれるなんてさ、とか。


 女王様になったら、イケメン以外の男と、私に服従しない全ての女を焼き殺して、贅沢に暮らすんだぁ、とか。


 焼き殺すよりも、殺し合いさせてみるのも面白いかもねぇ、とか。


 ……化け物。


 能力じゃない。


 心が化け物の女だ。


 どういう教育を受ければ、こんな邪悪な人間が生まれるの……?


 私は戦慄した。


 そんな私を他所に

 オトヤマは喜びながら思いの丈を語り続ける。


「ああ、愉しみ! 他の四天王は国持ちだから、私だって自分の国が欲しいよ!」


 アカイのジジイも、ショウダサンも、国貰ってるからさ。

 羨ましくってさぁ。


 魔王サマの出撃命令を貰えたときは嬉しくてさぁ!


 胸の前で腕をぐるぐる回すポーズをとるオトヤマ。


 ……アカイ? ……ショウダ?


 それが、他の四天王の名前なの?


「……四天王の支配している国はどうなっているんだ?」


 そこに。

 キリサキさんが口を挟んで来た。


 窮地でも、情報を取ろうとしてるんだ……


 私は勇者の、キリサキさんの目的意識の高さに感動を覚えつつ。


 時間の引き延ばしを考える。


 オトヤマはキリサキさんの言葉に


「は? 知らないよキョーミないし」


 そう素っ気なく返答し。


「つーかさ、アンタも日本人だよね? そのコート、こっちのモンじゃないし。顔つき考えてもそうだし」


 オトヤマはなんだかワクワクした顔で

 キリサキさんに顔を近づけ


「アンタは何をやったの? アカイのジジイもショウダサンも死刑囚だからさ。アンタもそうなの?」


 魔王軍四天王は、キリサキさんの世界での死刑囚の召喚勇者……!

 こんな邪悪な勇者が、あと3人居るの……!?


 絶望感が湧きおこるけど、諦めるわけにはいかない。


「……大量殺人」


 こんな風に、少しでも時間を稼ぐために。

 キリサキさんは敢えて話を合わせてくれているんだ。

 外の世界の人であるキリサキさんが。


 私たちが諦めるわけにはいかないよ。


「へぇ! 死刑確実じゃん!」


「……あの国には、裁かれない悪が多過ぎる」


「だよねぇ!」


 ……オトヤマが会話に意識が集中してる。


 今です……逃げて……


 御者さん!




 馬車は既に止まっていたんです。

 そして私は……私たちは。


 ここまで馬車に乗せてくれた軍人の男性が、ここから逃げ切れることを祈っていた。

 巻き込むわけには……いかない!

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