第20話 走る赤猫

「マズイ。逃げるぞ」


 鉄の筒を消しながら、キリサキさん。

 立ち上がり、馬車の軍人さんに


「悪い、すぐ出してくれ」


 そう言いつつ馬車に乗り込む。

 私たちにも


「すぐにキミらも乗れ!」


 そう言い放つ。

 慌てて私たちは馬車に乗り込んだ。


 そして馬車が発進した。

 結構なスピード。


 幌の無い馬車なので、風が感じられる。

 一体、何があったのか?


 だから


「……何があったんですか?」


 私がそう、キリサキさんに事の詳細を確認する。

 すると


「狙撃したが、通じなかった。ヤツの頭を弾がすり抜けたんだ」


 考え込んでいる姿でキリサキさん。


 物理無効は戦闘状態でしか発動していない。

 その可能性を考えて、狙撃したんだが駄目だった。


 キリサキさんはそう語った。


 そこに私も


「オトヤマは絶対に服を着替えています。そして着替えている以上、物理無効が途切れる条件があるはずなんです」


 見て、思ったことを口にした。

 物理無効状態で、全てのものがすり抜ける状態だったら、着替えの服にだって触れないでしょ。

 そして触れなかったら着替えられない!


「……そうだな」


 私の言葉を、キリサキさんは肯定してくれる。

 でも、じゃあどういう条件なんだ?


 そこに至ることができないので、私たちは黙った。

 そのとき


「あの、ケイジ様」


 クロリスが口を開いた。


 何だろう?

 何か思いついたの?


 彼女に視線を向ける。


 彼女は後ろを見ていた。


 そしてこう言ったんだ。


「後ろから火炎が追って来てます」


 ……え?

 私も後方を振り返った。



 すると言う通り


 まるで一里塚のように、火災が起きていた。


 火柱が一定間隔で燃え上がっているんだ。


 ……えっと?


 混乱する。


 そのときだ


「馬車を止めろ! そして御者! 逃げろ!」


 キリサキさんが叫んだ。

 キリサキさんのこんなリアクション、はじめてだ。

 いつも冷静なのに。


 だけど……

 その次の瞬間だった。


「逃がさないからね」


 嗤いを含んだ女の声がした。


 ……あの女が馬車に乗り込んで来ていたんだ。




 至近距離。

 半径2メートル圏内。


 そんな距離に、あの女が存在していた。


 オトヤマカツコ。

 キリサキさん曰く、16人も放火で焼死させた極悪人……!


 どうすれば逃げられる!?

 どうすればこの状況を好転できる!?


 ニヤニヤ嗤っているオトヤマを見つめながら、私は必死で頭を回す。


「はじめまして。魔王軍四天王の音山克子だよ~。そしてさようなら」


 手を振るオトヤマに、私は


「待って!」


 私は話し掛けた。

 おそらく、ここで会話を切ると詰む。

 そう思った。


 だから


「何が目的なの!?」


 そう、私はオトヤマの注意を引くために、彼女の自己顕示欲を刺激するような質問をした。

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