第19話 音山を攻略するには

「タンザは音山に物理攻撃が効かないことを絶望視してたみたいだけどな」


「はい」


 私たちは一番最後にオトヤマが出現し、ヒウマニ国防軍が撤退を余儀なくされたという防衛拠点の丘の砦を目指していました。

 無論、その移動は馬車です。

 兵員を輸送するための軍用のやつですけど。

 そこで私とキリサキさん、クロリスの3人で揺られていました。


「それで音山が付け込む隙の無い完全無欠の超能力者であるということにはならないんだ。……音山の人格を想像すると、もしそうであるなら魔王に成り代わることを考えるはずだと思わないか?」


 ……なるほど。

 戦い慣れている人の意見は違うな……


 私はキリサキさんの言葉に頷きます。


「大体だ、全ての物理攻撃が透過するという能力だと、不都合あるだろ」


「というと?」


 私が訊き返すと


「まず、地面に潜ってしまうはず。地面も透過するだろうからな。もしそれが特例で例外設定だったとしても……」


 ここで、キリサキさんが元軍人であるということを思い出さざるを得ない意見が出ました。


「水も食糧も摂れない。……飲まず食わずでは人間は生きられない」


 あ……!




 確かにそうだ。

 水も食糧も摂れないなら、人間はすぐに死ぬ。

 そうなってないんだから、ちゃんと食べて飲んでるはず。


 だから何か物理無効状態が途切れる条件があるはず。

 もし、それが無いんだとしたら、物理無効例外設定になってる水と食糧に毒を仕込む算段をすればいい。


 ……キリサキさんの言葉に、私は道が開けた気がしました。


「あそこです。勇者様方」


 馬車の御者をしている軍人さんに教えられ、私たちは馬車を降りました。


 高台の上に、石の砦。

 ポツンとありますね。


 見晴らしの面から考えて、その拠点としての重要性はすぐ分かります。

 ……あそこにまだ、オトヤマは居るのかな?


「私が使い魔を飛ばして、様子を見てこさせましょうか?」


 クロリスがそう言い、その右腕にとまっているフクロウが羽ばたく仕草をしますが


「いや、不要だ。……居るな。音山」


 えっと……?


 キリサキさんは、何か筒2つとレンズ……アレに似てますね。

 双眼鏡……そんな道具。


 それを覗いてそんなことを。


「だったら話は早い。試してみたい手がある」


 言ってその道具を目から外し、何かをはじめようとするんですけど。

 その前に


「キリサキさん、その道具を借りれますか?」


 思い切って、訊いてみました。

 実は前々から興味はあったんです。


「大丈夫だが、こういう道具類をこの世界に持ち込むのはおそらく良くないから、使用後は消すぞ?」


 そんなことを言います。

 私は頷き


 差し出して貰ったその道具……キリサキさん曰く、なんと「双眼鏡」を使って。


 あの砦を見ました。

 おお、すごくよく見える……私たちのとは多分性能が違うな……


 すると



 確かに、砦のてっぺんのスペースに、突っ立ってるどう見ても人間の女がいます。

 20才くらいの女。


 ……あれがオトヤマカツコ?


 オトヤマカツコは、不細工な女では無かったですね。

 キリサキさんの話から、もっと卑しい顔をした見るからに下種な女を想像していたのに。


 意外に美人でした。


 ただ……


 何でしょう? 先入観かな?

 顔は綺麗でも……目に。

 その目にその魂の腐り具合が現れている気がしました。


 黒髪で、カールが掛かっているセミロングでした。

 背は多分、160センチ無いんじゃないかな。

 私より背が低い印象です。痩せ型の体型でした。


 服装は……無地の服でしたね。

 黒いパンツと白のトップス……。

 それに黒い丸い帽子を被っていました。


 多分、キリサキさんの世界のファッションですね。

 こっちでは見ない服装です。


 ……あれ?


 そういえば、キリサキさんを召喚したとき。

 多分普段着の、スウェットって服装だったのに。


 あの女の服装、死刑囚っぽくない。

 キリサキさんの世界の死刑囚って、あんな格好してるの?


 ……違うよね?


「キリサキさん、あの女、服」


 言って、キリサキさんの世界の高性能な双眼鏡から目を離すと。


 ギョッとしました。


 何だかキリサキさん、立膝で座って、あのデザートイーグルとかいう武器に少し似た、長い鉄筒を構えていたんです。


 その鉄の筒には、望遠鏡みたいな筒が上部についていて……


 何……? これ……?


「悪い。ちょっと黙ってくれ。集中したい」


 そう言いながら。

 キリサキさんは、右手の人指し指で、その道具の引き金を引いたんです。


 すると破裂音がして。

 何かが発射された気配がありました。


 ……そんなまさか?


 ここからあの砦、1キロは離れているのに!?

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