第11話 くっころ
「うあああ! ああ!」
両手を無くし、青い血液を流すクロリス。
ですけど、すぐ悲鳴を押さえ、シャダムへの神への祈りを捧げて
治療魔法を発動させ、出血を止めました。
……手は生えて来ませんけどね。
その位階には居ないのか。
私は少しホッとしました。
両手を無くし、立ち尽くしているクロリス。
そんな彼女に
「決して壊れない上、資格が無い者には重さがこの国の国民の体重の総量と等しくなる剣……それはつまり」
クロサキさんの言葉。
その内容は
「事実上、何でも切断できるっていうことだ。国民総量が一体何万トンあるのか分からんが、その重さで斬りつけられて、鎧が機能するわけが無い」
ああ、そっか……
その視点が無かったので、私は本気で感心しました。
クロサキさんには勇者の剣は重さは無いに等しいみたいですが、それ以外の者にとっては何万トンなんです。
そしてその刃が相手に触れたとき。
その重さの刃で叩き切られていることになるわけだから……
確かに、鎧の意味が無くなると思う。
そっか……そういうことだったんだ。
そしてクロサキさんは
「どうする? まだやるか?」
勇者の剣の切っ先を、彼女の眼前に突きつけました。
すると彼女は
「くっ、殺せ……」
そう言ったんです。
「魔王軍は敗北は死をもって償うのが掟! 私はこのまま帰っても死を魔王様に賜るだけだ! すでにもう魔王軍に居場所は無い! 殺すがいい!」
そう言い。
身に纏っていた鎧を解除。
再び頭上に現れた魔法陣に、鎧が独りでに外れて吸い込まれて消えていきます。
で。元の執事風の上下衣装の姿に戻り。
処刑を待つ囚人のように膝を折り。
座り込みます。
「なるほど」
キリサキさんはそう呟いて。
「……魔王軍は兵士の使い方が最低だな。なぁタンザ」
私に視線を向けました。
私は背筋を伸ばす勢いで
「はい! 何でしょう!?」
そう返しました。
キリサキさんは
「嘘を判別する魔法ってあるかな?」
私は興奮してしまった。
……ありますよ!
嘘感知。
真言魔法の上級位階。
私は宮廷魔術師なので、当然使えます。
真言を唱え、私は嘘を感じ取れる状態になり。
私たちはクロリスを尋問しました。
で、色々分かったのは……
まず彼女が、勇者の剣を盗み出すために、単身でヘブンロード王国に潜入した中級騎士だと言うこと。
そして任務を果たせないばかりか、途中で敗北した自分は魔王軍にもう居場所が無いということ。
なのでさっきの「くっ、殺せ」は本気だったということ。
「……敗北したときこそ、生きて帰って情報を持って帰らないといけないのに。魔王軍は上が精神論だけで動かしている奴なのか?」
キリサキさんはそんなことを淡々と口にします。
この人、ホント元の世界で何をしていた人なんだろう……?
そんなことを思っていたら
私は続く言葉に戸惑い過ぎてしまった。
それは……
「まあいい。もう行っていいぞ。この国で人間変身をしてひっそりと生きて行けば、生存はできるだろうし」
そう言って、キリサキさんは勇者の剣を納刀したんです。
……え?
「見逃してしまうんですか!?」
「ああ。特に邪悪には感じないし、魔族は醜いことは禁忌なんだろ? だったら任務失敗の腹いせに、人間を無差別に殺すみたいなことはしないと思うんだが……甘いか?」
そんなことを言うキリサキさん。するとクロリスは
「そんな卑怯卑劣な真似はせん! 魔族を侮辱するな人間!」
そんなことを叫ぶように言って。
同時にそれが本当であることが、私には感じ取れてしまったんですよね……。
そんで。
私たちは勇者の剣を得て、勇者の祠を出たのですが。
「ケイジ様、荷物持ち以外に何かするべきことは無いか?」
……私たちの使命に、もうひとり同行者が増えてしまいました。
執事服姿で、グラマラスボディのクールなボブカット美女……。
まあ、人間変身したクロリスなんですけど。
切断した手は、私が魔法で再生させました。
彼女が「命を救っていただいた恩を返したい」と言い出して。
で、どうもそれも本気なので、認めざるを得なかったんですよね。
ちょっとだけ、えらくアッサリ魔王軍を捨てるんだな……それでいいの?
って思ったけど。
否定する材料が無いから……
で。
魔族の姿じゃマズいので、当然普段は人間変身。
そしてこうして、キリサキさんの従者のポジで行動してます。
まあ、頼もしくはあるんですけど……
魔族の習性を思い出すと、なんかモヤモヤするんですよね。
魔族って……自分より優秀な相手には敬意を払って……
それが異性であった場合。
その対象との子供を欲しがるんですよ……。
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