第10話 神聖魔法と暗黒魔法
「人間! それは何だ!?」
クロリスは顏を庇う姿勢が崩せないみたいです。
その理由は……
あのキリサキさんの手にある鉄の筒の道具ですね。
アレ、何かを発射する道具で。
クロリスが腕を下げると、それが鎧の無い頭部に命中してしまうのか。
「デザートイーグル。威力重視でこれを選んだが……まあ、サイレンサーつきがこの状況で役立つとは思えんし」
言いながらドン、とまた発射。
クロリスの腕が震えます。
「鎧を撃ち抜くのは不可能、と。よく分かった」
言って右腕を振ると、キリサキさんの手からその「デザートイーグル」が消えました。
……道具の召喚も、消去も自由に出来るんですね。
「ならば、仕方ないな」
そう言って私に視線を向けて
「タンザ、目を瞑り耳を塞ぎ口を開けろ。あと、しゃがんで体を丸めるんだ」
そんなことを言ったんです。
ええと……?
でも、勇者の言うことですし。
私は言われた通り、魔術師の杖を抱きながら両耳を塞ぎ、目を瞑り、口を開けました。
そしてしゃがみこんでダンゴムシ。
ものすごく、抵抗感があったけど。
だって、敵前でこれは……
でも、勇者の、キリサキさんの言うこと。
この指示は、絶対に従った方が良い。
そんなこの人への信頼が、既に私の中にはありました。
すると、数瞬後
瞼の裏で、もの凄い光の気配を感じました。
同時に凄まじい音が、塞いだ耳越しに聞こえて。
驚きがあり、目を開け耳を離すと
「ぎゃああああああ!! 目が、目がああああああ!!」
両目を押さえて、叫び声をあげているクロリスが。
そしてキリサキさんは
「これが勇者の剣か」
剣が安置されている祭壇の方に居て。
悠々と、祭壇から剣を拾い上げていました。
勇者の剣……それは。
直剣で、金色の鞘に納まってました。
鍔は細長く。
握りは茶色い革が巻かれてあって。
鞘には神聖文字で祝福の文言がいくつも書かれています。
私も見るのは初めてです。
存在と、大体の外観は口伝で聞いて知ってたんですけど。
そしてキリサキさんは
「……勇者の剣は決して壊れない剣。ということは、刃毀れもしないわけだ」
ここまでの道中教えた、勇者の剣の言い伝えを復唱しながら抜きました。
軽々と。
資格の無い者には、勇者の剣はヘブンロードの民全ての重さと等しくなるが、資格を得た勇者には、鳥の羽毛のように軽くなる。
それを目の当たりにして……
私はゾクゾクするほど、感動しました。
勇者の剣の刀身には、神聖文字が刻まれています。
その意味は……『勇者に力を』
「西洋の剣はフェンシングになるのかな? 俺は剣道と居合の経験しか無いから、正しく使えるかどうか分からないが……」
言いながらクロリスに近づいていきます。
仕草で分かったんですが、クロリスは失明してるみたいでした。
しかし……
両目が見えないのに、立ち上がり、キリサキさんに向き直ります。
それを見て、感心するキリサキさん。
「失明してるはずなのに、何故分かるんだ?」
ああ、それは……
「魔族の額の目は、魂を見るんです」
だから、物理的に潰さないと視力を奪えないんですね。
私の言葉に
「なるほど」
納得するキリサキさん。
そのときでした。
「治れッ!」
クロリスの言葉。
あっ、と思いました。
私たち人間は、人間の神イブリスに愛されると神聖魔法という神の奇跡を扱う魔法が使えるようになります。
対して魔族は、創造神シャダムに愛されることにより、私たちと少し違う神聖魔法が使えるようになるんです。
……私たち人間は、暗黒魔法って呼んでますけど。
暗黒魔法は神聖魔法と内容はほぼ同じ。
主に癒しと護りに特化した魔法。
そしてその中に。
失明を治療する魔法があるんですよ。
多分クロリスは、目を潰された後に小さく、シャダムに対する祈りを捧げていたんだと思います。
で、この状態で状況を逆転する切り札に使った。
失明した相手に、悠々と近づいている油断。
そこを突くために。
大鎌を振り上げて、キリサキさんに斬り掛かりました。
けれど
「ああああ~ッ!」
次の瞬間、大きく踏み込んだキリサキさんの横薙ぎの斬撃が、クロリスの両手を大鎌ごと切断していました。
……鎧で武装された彼女の両手を。
勝負あり……ですね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます