第9話 魔王軍の女騎士
「なるほど。魔法のある世界だから、変身魔法もありそうだと踏んでたんだが。こっちも予想通りか」
キリサキさんは変身魔法を解除した魔族の女を前にして、平然と呟き続けます。
ええ、確かにありますよ変身魔法!
仰る通り真言魔法の中級位階に!
でもいきなり女性相手に売春婦なんて酷過ぎますよ!
いくら魔族でも!
そう思い、若干引き気味に心で非難してしまう私。
対して、いきなり酷い侮辱を受けた魔族の女は
「我が名はクロリス! 魔王軍騎士団の魔軍騎士! 覚悟するがいい人間め!」
そう名乗って、彼女はスッと両手を上げて、頭の上で両手を回しました。
すると
そこに輝く円形の魔法陣が彼女の頭上に出現。
これは……!
魔法武具の召喚……!
私は真言を唱え始めました。
多分間に合わないなと思いつつ
クロリスは頭上の魔法陣から鎧を召喚し、自動で身に纏っていきます。
鎧の方から彼女の身体を覆って行くんです。
完全武装までの時間は2秒無かったと思います。
瞬く間に、顔以外の部分を漆黒の金属鎧で防御し、魔族の女騎士として相応しい姿になりました。
クロリスの鎧は、その意匠がおそらく龍で。
そのあちこちに、龍の頭部だとか、翼だとか、爪だとか、鱗だとか。
そういうデザインが見て取れました。
「狩り殺してくれる!」
そう言い、彼女は地を蹴りました。
その手に漆黒の、こちらも龍の意匠が凝らされた両手鎌を握り締めて。
そしてそのときにようやく私の真言による魔法詠唱が終了し
私はキリサキさんの身体を杖で触れました。
「あなたの筋力を2倍にします」
こう言いながら。
これは「筋力倍化」の魔法。
真言魔法中級位階の魔法です。
杖にうっすらと灯っていた輝きが、キリサキさんの身体に移ります。
これでキリサキさんの身体能力は20倍!
「持続時間は約1分。その間に出来れば決めてください!」
それだけ言って、私は次の手を考えます。
……ここ、狭すぎるから広範囲攻撃系魔法は巻き込みの危険があるので使えません。
何をするべきなのか……
キリサキさんは私の前に進み出て、突っ込んでくる魔王軍女騎士クロリスの一撃を迎え撃ちます。
彼女の大鎌の斬撃を透明な盾で受け止めました。
あれはきっと、キリサキさんの超能力で呼び出したキリサキさんの知ってる道具!
……材質が分かんない!
金属には見えないのに、あれで魔軍騎士の斬撃を止められるの!?
クロリスもそれが意外だったようで
「何なのだその盾は!」
クロリスの驚愕。
そこに生じた隙。
キリサキさんはその意識の空隙に、彼女の胴を狙った廻し蹴りを叩き込みました。
元の世界の20倍の身体能力で繰り出される蹴り。
しかも、キリサキさんはどう見ても鍛えてる人ですし。
一言で言うと、文字通り吹き飛びました。
そのまんま、激しく洞窟の壁に叩きつけられます。
そのままキリサキさんは追撃に飛び出そうとしますが、その前にクロリスが顔を上げ、その口を大きく開きました。
……マズい!
「魔族は有害な息を吐く能力を持ってます!」
ブレスっていうんですが。
私は大声で警告しました。
私の警告を聞いて、キリサキさんはサイドステップ。
そこにクロリスがブレスを吐きます。
それは吹雪のブレスでした。
クロリスの輝く吹雪の吐息が浴びせられた地面の水分が、瞬く間に凍っていきます。
クロリスは回避に出たキリサキさんを追うように、顔を動かしブレスを追わせ、薙ぎ払うように動かします。
これがずっと続くなら、大変マズいんですが。
これはあくまで吐息ですからね。
肺の空気が切れたら止まります。
でもその間にクロリスも体勢を整えて。
立ち上がり、大鎌を構え直しました。
そこに
破裂音がし
ギィン! という音がしました。
それに合わせてクロリスがその両腕で顔を庇ってました。
えっと……
「凄いなキミは。咄嗟にそれができるなんて」
そう言うキリサキさんの右手には。
見慣れない謎の道具が握られていました。
……なんでしょう?
金属で出来た道具です。
鉄の筒?
先端から煙が上がってて。
想像ですけど、あれは何かを撃ち出す道具みたい。
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