第7話 勇者の剣

「なるほど。キリサキさんの世界では、家名が最初に来るんですね。こちらでは全員個人名が最初で、家名が後なんですよ」


 ついでに言うと、魔族は家名が無い。

 名前のみだ。


 その辺をキリサキさんに伝えると


「俺の国では、個人より家が重視される。だから先に家名が先に来る。そうじゃ無い国だと、こっちと同じく先に個人名だ」


 そう教えてくれて。


 続いて


「……魔族が個人名のみなのは、弱ければ魔王の子供でも殺されるような環境だからだろうな」


 だから家制度が無いというか、そういう発想が無いんだろう。

 何故なら自分以外は全てライバルで、競争相手だから。

 家を構える意味が無い。


 だから家の概念が生まれない。


 そんな彼なりの分析を聞かせてくれて。

 私は「なるほど……」と洩らしてしまった。


 名前にはそういう傾向が出るんですね。


 と、色々と会話していたら……


 勇者の祠に到着した。




「ここが勇者の祠か」


「そうです」


 キリサキさんの言葉にそう返すと


「……番人はいないのか?」


 そう、祠の周囲を見回しながらキリサキさん。

 キリサキさんの言う通り、勇者の祠には番人が居ない。


 大きさ5メートルくらいの幅と高さで。

 自然石を組み上げたような石造り。

 そこに金属格子の扉がついてる。


 それだけ。

 誰もいない。



 番人。

 んー……


 番人ですか。


「勇者の剣を盗む人は居ないというか……無理なんですよ」


 私はそう教える。

 すると


「無理とは?」


 キリサキさんが食いついた。

 私は彼に答えた。


「国王陛下に認められた人間でないと、まず持ち上げられないんです」


 ……そう。

 ヘブンロード王国国王に認められた勇者以外には、勇者の剣はヘブンロードの民全ての重さになる。


 こう言われているんだ。


 だからまず、持ち上げられるわけがないから、盗まれない。


「そういうわけで番人要らないんですよ」


 言いながら、金属格子の扉の鍵を道具袋から取り出し


 鍵を開けようとした。

 けれども


「え……?」


 ……よく見ると、すでに開いていた。




 私たちは祠の中に駆け込んで、奥を目指した。

 祠の中は洞窟を流用した形になってて。

 かなり広かった。


 幅6メートル、高さ8メートルくらいの石の洞窟だ。


 冷たく、濡れてて、滑りやすくて。


 走っていくのは怖かったけど。


 キリサキさんは全く危なげなく走ってる。

 あのブーツに秘密があるんだろうか?

 特注品って言ってたし。


 祠の中は段々暗くなっていく。

 ……灯りが必要になる?


 魔法による灯りの確保の是非。

 そう思い迷ったけど


 その前に、奥の方から光が


 ……あれは魔力の光!


 つまり、誰か居る!


 私たちは走った。


 走ると……


「この剣重過ぎるのだが!?」


 ……なんだか、若い女の声が聞こえて来たんだ。

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