第6話 呼び名は

「色々、申し訳ありませんでした」


「別に気にしていない」


 謁見が終わり。

 私たちは外にいた。


 2人でトボトボ街道を歩いている。




 私たちは陛下から、勇者の祠に向かって勇者の剣を回収することを許されたので、これから取りに行くんだ。


 さっきまでの私は、宮廷魔術師の正装である、あのダボついた豪奢なローブ姿だったけど。

 あれでは動きにくいので、丈の短い簡易ローブに着替えていた。


 キリサキ様曰く「なんかその恰好は有名映画で前に見たような気がするな」らしい。


 映画って何……?


 私は膝が隠れる程度の丈の、マントに似た黒のローブに。

 中に黒いスカートと白いシャツを身に付けている。


「その杖は他に無かったのか?」


 着替えて来た私が、変わらず同じ杖を持ち続けていることに気づいて。

 キリサキ様はそう指摘してくる。


 ……知識の無い人にはそう見えてしまうのか。

 私は誤解があるといけないと思い


「私が使用する魔法は、真言魔法と神聖魔法があるんですね」


「ふむ」


 歩きながら。

 キリサキ様が相槌を打つ中、私は魔法の説明をした。


「このうち、真言魔法という魔法には魔力を収束する媒体が要るんですよ。発動体って言うんですけど」


「なるほど」


 ……これだけで、理解してくれたようだった。


「つまり、そんな替えのきかない大事な道具だから、これだけは持ち替えられないということなんだな?」


「……まあ、そういうことです」


 正解は、これが最高級品で、これ以上の魔術師の杖はこの国には存在しないからなんだけど。

 そこはまあ、どうでもいいか。


「それとあとひとつ」


「何ですか?」


 何かまだあるのだろうか?


 キリサキ様は


「その肩に乗っけている黒ネズミはペットか?」


 私の肩を指差し、指摘。


「確か、俺の召喚時と王様との謁見のときはいなかったよな?」


 その通りですね。

 ここも説明しなきゃか。


「これは使い魔です。術者と五感を共有する生き物」


「使い魔……」


 その横顔はちょっと、感心してくれているように見えた。

 なんか嬉しかった。


「あとでまた、詳しく教えてくれ。……仲間の技能はきちんと把握しないと作戦が立てられない」


「ええ。分かりました」


 私はそう頼んでくるキリサキ様に、微笑みながら頷く。


 すると


「すまない。ありがとう、ええと……」


 考え込んでいる様子。


 見たところ、キリサキ様は私の名前が出てこないようで

 なので。


「タンザナイト・トリストー。……友達はタンザって呼びますキリサキ様」


 覚えやすいように縮めた呼び名を教えた。

 それに対しキリサキ様は


「分かった。よろしくタンザ」


 ニコリともせずにそう応えてくれた。


 で


「それと、俺のことは様付けしなくていい。どうしても敬称を入れたいならさん付けにしてくれ」


 そんなことを言われてしまう。


 えーと……


 キリサキさん?


 ファーストネームにさん付けって……


 それ、まるで妻じゃない!


 それは……さすがに……


「ケイジさんじゃダメですか?」


 妥協案を提示する。

 さすがに、結婚の予定も無い相手に、ファーストネームさん付けは抵抗が……


 そう思ったんだけど


「……何で?」


 キリサキ様は困惑した顔をしている。

 何でそんな妥協案が出たのか分からないみたい。


 ええと……


「ファーストネームさん付けって、まるで夫婦みたいなんで……」


 ちょっと言いにくかったけど、なるべく怒らせない様に言葉を選んだ。

 男の人に向かって、夫婦みたいだから嫌だ、なんて言い方、怒られるかもしれない。


 だけど……


「ケイジの方がファーストネームの位置づけだ」


 即座に真顔で返され


 ……へ?


 私はまた、間抜けな声を洩らしてしまった。

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