第2話 勇者キリサキ
「何で話を聞いてくれるんですか!?」
私の言葉に、勇者は怪訝そうな表情になった。
そしてこう返してくる。
「それじゃマズいのか?」
「マズくないです! とても嬉しいです!」
脊髄反射で返答。
でも……だって……
私は、交換条件で勇者の奴隷になろうと思ってたのに!
その覚悟決めてたのに!
こういう場合、召喚される勇者は8割男性って記録見てたから、玩具を色々用意してたのに!
首輪も用意したのに!
私は、そんな玩具一式をまとめておいた木箱に視線を向ける。
この部屋の隅に置いてあるんだけど。
すべて……無駄になった。
……あ、別に良いのか。
でも……なんかちょっと残念な気がする自分がいる。
何故だろう……?
私、多分見た目そんなに悪くないと思うんだけどなー。
まあ、超絶美人だとはとても言えないけど。
別に太って無いし。
この銀髪ロングの三つ編みだって、清楚で良いよって友達に……
なんて自分の髪を弄りながら余計なことを考えていたら
「話をしてくれないか?」
なんか、困惑したような勇者の声が。
それを聞き、私は
「あ! 申し訳ありません!」
まるで居眠りを見つかった学生みたいに、私は慌てて返答した。
話だ、話。
「まず、名乗ります。私はタンザナイト・トリストー。この国の宮廷魔術師です」
「なるほど。俺は
淡々とそんなことを言う勇者キリサキ様。
ニート?
何それ?
まあいいや。
勇者の世界で勇者が何をしていたかってのは、ここでは特に意味は無いから。
「名乗っていただきありがとうございますキリサキ様」
私は頭を深く下げた。
キリサキ様はそんな私を無表情に見つめて
「で、何で俺を呼んだんだ?」
この質問。
それに対し、私は
「この世界を救ってもらうためです」
「それはさっき聞いた」
即座に切り返される。
キリサキ様が何を聞きたいのか。
それは召喚された理由だろう。
それは目的じゃ無くて……
だから私は、重要情報を伝えた。
「……勇者召喚の儀式で呼ばれる異世界人は、呼ばれた状態から一切
そう。
これが勇者召喚に私たちが賭ける理由。
その超高い身体能力と超常能力で、魔王を倒して貰いたいのだ。
そんな私の言葉を聞き、キリサキ様は
「……なるほど。ヒーローものの創作物によくあることだな。生まれ故郷では常人でも、別世界に行くと超人化するとか……」
何故か、勇者は、キリサキ様は私の言葉を聞いて、顎に手を当ててうんうん頷いて納得していた。
……そういうリアクションをするような言葉なんだろうか?
もっと驚くと思っていたのに。
「なるほど。納得した。ならば世界を救いに行こうか」
……こうして私が、もっと拗れると思っていた勇者様の説得は、アッサリと成功する。
えっと
「……何と戦うのか、訊かないんですか?」
あまりにもこっちに都合が良い流れなので、思わず訊ねてしまう。
するとキリサキ様は
「結論は戦う一択なんだ。別に訊きたいとは思わない。それに……」
どうせこの後、キミの上役に、つまりこの国の国王と謁見の運びになるんだろう?
そのときに改めて話があるんじゃないのか?
……そんなことを言われた。
この人、そこまで読んで行動してるの?
……いやいや、それ以前に
何故俺がそんなことをしなきゃいけない?
……これが最初から無いなんて。
そんなの、私の予測には全くなかった。
どういうことなんだろう……?
私はあまりにキリサキ様が理解できないので、困惑のあまり気圧されていた。
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