第10話 ライオス視点 僕の妹
「ディア、大好きだよ。」
隣で泣きつかれた可愛い妹の頭を撫でながらぼそっと呟く。
この子は、たまに大人のようなことを言う。
やはり、『あれ』のせいだろうか。
「母上ならわかるかもな。」
眠りながら泣いている妹の涙をそっと拭いた後、僕は空をじーっと眺めた。
今日は、月が綺麗だな。
ーーーーー
「月の姫?」
「そう、月の少女。リュンヌ家の初代大公夫人がそうだった。」
今でもあの日を覚えている。
父上から母上の死の真相と、セレネディアが大人びた発言をする理由を。
『初代リュンヌ大公は、月から降りてきた少女と恋をした。その少女は月のお姫様らしい。2人は仲睦まじく暮らし、子供が生まれた。これがリュンヌ大公家の始まりだ。そして、今代で初めての女の子がリュンヌ大公家に生まれた。その子はスクスクと育ったが、5歳になった日、突然姿を消した。慌てた僕とローズは、至る所を探した。しかし、どこにもいなかった。
何日も寝ずに探し、2日が経ったある日、近くの森から大量の月の光が放出されているのを部下が発見した。急いで向かうと、ディアの月の力が暴走していた。それを止めようとしたローズは、ディアから溢れ出ている月の力を吸い取ろうとして、死んでしまった。あの日のディアの顔は忘れられない。全てを悟ったかのような、絶望した顔で、呆然と立っていた。そして、その日からディアはたまに15歳のような発言をするようになった。暴走したのが理由なのかはわからないが、あの日が理由なのは確かだろう。…もうあのような事件は起こしたくない。僕とライオスでディアを守らなければならない。』
父上と、ディアを絶対に守るという約束をしたのに、やっぱり、お兄ちゃん失格だ。
…でも。
ディアの言う言葉は本当に僕のことを救ってくれる。
父上がディアの記憶を消してくれて良かった。
今のディアが真実を知ったら…
考えたくもない。
さっきのディアの表情だって。
まるで、姉のような表情だった。
自分が一番怖いのに、僕たちを安心させようとしているような笑顔。
「兄様頑張るからね。」
ーーーーーーーー
「わっ!」
慌てて起きると、私はベッドの上で眠っていた。
隣には兄様。良かった、泣き止んでる。
そういえば、あの男の子は?
「テア。」
「おはようございます、お嬢様。」
「あの男の子はどこ?」
ちゃんと治療受けてるかな。
「医者に診てもらい、今はクロード様の隣の部屋で寝ております。」
クロード様って、確かパパのお姉様の息子よね。
挨拶ついでに寄っておこう。
パパにその子の体調を任されてるし。
「案内して。ついでにクロードさんに挨拶しに行くから。」
「わかりました。」
てあの得意技高速着替えが炸裂した後、私は眠っている兄様の上に毛布をかけて、部屋を出た。
「ここがクロードさんのお部屋?」
まさかパパの執務室の隣だったなんて。
「はい。私は外で待っていますので、何かあったらいつも通り呼んでください。」
心強い侍女の顔を見て、私は頷いた。
「クロードさん、今空いてますでしょうか?」
扉をノックするが、返事が来ない。
寝てるのかな。
失礼かもしれないけど、部屋の中に入ってみるか。
「クロードさん。」
そっと扉を開けると、クロードさんはベッドの上で眠っていた。
「ディア、嬢?」
あ、気づかれてしまったと内心思いながらも、私はぺこっとお辞儀をして、一歩下がった。
「ごめんなさい、クロードさん。ちょうど通りかかったから挨拶をしたくて。もう部屋を出るので安心してください。」
急いで扉の方を見ると、クロードさんに服の裾を掴まれた。
「また、きてくださいね。」
トパーズのような瞳が前とは違って光輝いた。
生きてるって目をしてる。
すぐに眠ってしまったクロードさんを見て、私は微笑んだ。
「はい。」
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